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モルドバワイン特集 Vol.2(ワインの歴史・現在、ワイン法)

東欧ワイン

全3回に分けてモルドバワインを特集しております。
第2回目は、モルドバ共和国についての概要です。
モルドバワインの歴史・現在、ワイン法について説明いたします。

執筆 遠藤エレナ

執筆者紹介記事はこちらから

モルドバ

目次
1.国の概要
2.モルドバワインの歴史
3.モルドバワインの現在
4.モルドバのワイン法

国の概要


モルドバ共和国、通称モルドバは、1991年に独立した比較的に若い国家です。首都はキシナウ。
モルドバ民族は紀元106~271年の間に、原住民のダキア人と征服してきたローマ人の混合から生まれました。
モルドバ公国が建国されたのは1359年のことです。その後、オスマン帝国やロシア帝国、ソ連の影響下の時代を経て、ソ連の崩壊とともに元モルドバ公国東部のベッサラビア地方がモルドバ共和国として独立しました。
モルドバは、南東ヨーロッパのルーマニアとウクライナの間に位置し、面積は33,843㎢と九州よりやや小さめな国です。肥沃な土壌、そして穏やかな大陸性気候に恵まれている環境で、ブドウ栽培とワイン造りのみならず農業全体が盛んな国です。ソ連時代に大量生産を目的とした工業的なワインが多く産出されましたが、現在は品質を重視し、減農薬による環境に優しい慣行農法に国をあげて取り組んでいます。
モルドバは長らくロシア帝国やソ連の一部だったため、民族のアイデンティティーがスラブに近いとしばしば誤解されます。しかし、ルーマニアとともに東欧では珍しいラテン系民族です。公用語はモルドバ語(実質的にはルーマニア語)です。独立後も政治が混乱している状態が続きロシアの影響も多少残ってはいますが、現政権や国民の立ち位置はEUへ向かっています。EUへの加盟を視野に入れ、EU からの援助を受けながら国内では様々な改革や改善の努力が行われています。

モルドバワインの歴史


モルドバのワイン造りは5000年も前に遡り、モルドバ人の祖先であるダキア人は盛んにワインを造っていました。
中世のモルドバ公国でも、ワインは貴族の宴会だけでなく、民衆の結婚式や教会での儀式など様々な場面において登場しています。15世紀のモルドバ公シュテファン・チェル・マーレの時代にモルドバ公国は最盛期を迎え、公爵はワイン造りを奨励したためワインの生産も盛んになりました。公爵により「パハルニック」という役職が定められ、公爵のブドウ畑の管理から、収穫、醗造、カーヴでの保管、そして宴会でのワインのサービスまでも統括をしていました。
現在のソムリエと同様に、ワインの分野の中で欠かせない専門家だったでしょう。
16世紀から300年間に渡るオスマン帝国期には、ワイン造りは一時的に停滞したと言われていますが、民衆により自家醸造ワインは造り続けられていました。その後のロシア帝国時代の1840年にはベッサラビア地方のワイン生産量はロシア帝国の中で最多でした。フランスワインを愛飲していたロシア貴族たちはベッサラビアをワイン造りに適した土地として注目し、フランスから専門家を招聘しフランス系ブドウ品種も多く導入しました。
1940年からのソ連時代はモルドバワインにとって良い時代とは言えません。フィロキセラ禍の影響と、品質より生産性を優先するソ連により、ブドウ品種はハイブリッドが91%を占め、ヨーロッパ品種が7%、土着品種はわずか2%と非常に減ってしまいました。この頃のモルドバワインはほとんとソ連内で消費され、ソ連全体のワインの消費量の5分の1がモルドバ産でした。独立後もロシア人の嗜好に合わせたワインが大量にロシアヘ輸出され続けました。

モルドバワインの現在


モルドバワイン産業が大きな転換点を迎えたのは、2006年にロシアによる禁輸危機の時でした。これ以降ワイン輸出量は2007~2013年の間に60%も減り、ワイン産業が大きく混乱し、輸出先の見直しを余儀なくされました。西欧やアメリカ、アジアに輸出するために、従来の量を優先する造り方から品質重視に方向転換が図られ、ワイン産業において様々な改革が始まりました。
まず、EUに準拠する地理的表示に関する法律の採択や、EUのワイン産地名を借用したジェネリックワインを廃止。
2014年にEUとの連合協定が締結され、その一環として地理的表示に関する法整備が進められ、2008年には「地理的表示、原産地呼称、伝統的特産品の保護に関する法律」が導入されました。更に、2013年にワインの品質やブドウ畑を全面的に管理するモルドバのブドウ・ワイン協会も創立され、ワイン造りを定める法律も見直されました。その結果、モルドバワインの品質は急速に向上し、EUやアメリカ、中国や日本への輸出が顕著に増加しています。ワイン産業がGDPの3.2%も支えられているモルドバにとっては重要な進展です。
現在は、高品質なワイン用ブドウの栽培面積は約11万2千haです。しかし、テロワールを重視した造り方や、グローバルな嗜好や品質に合わせたワイン造りはまだほんの一部であり、国際的に注目される生産者はまだ少ないと言えます。この中で、大手メーカー以外では中小の生産者も活躍しており、モルドバにおけるワインの意識を変えようとしています。

コドゥルにある生産者アスコニのワイナリーにあるゲスト用レストラン

モルドバのワイン法


品質分類
ワインに関する諸規定は2006年に採択された「ブドウ・ワイン法」、そして食品全般の原産地呼称と地理的表示は2008年の「地理的表示、原産地呼称、伝統的特産品の保護に関する法律」によってモルドバワインの名称を保護するDOPとIGPが定められています。DOP (Denumire de Origine Protejata)はほぼ活用されておらず、現時点では2つしか登録されていません。一方、IGP (lndicatie Geografica Protejata)は4つ登録されており、地域内の原料を利用、もしくは定められた生産方法で製造されるなど、諸規定に即したワインに使用されています。

家庭ワイン
モルドバでは自家醸造が許されており、所有するブドウ畑が15アール以下で、家庭内あるいは個人消費用に造られたものであれば申告は不要です。実際に約40%のモルドバ人は自家醸造ワインを愛飲しており、特に農村部では家庭でワインが造られるのは珍しくありません。また、ほとんどの一戸建て個人宅では地下にカーヴがあり、自家製のピクルスやジャムなどと一緒にワインも保存食の一つとして並んでいるのが一般的です。

小規模生産者
小規模生産者とは、年間10万リットル以上を製造し、1ha以上20ha以下のブドウ畑を所有し、他の大手のワイナリーから独立している法人、と定義されています。モルドバワインの品質向上において、海外留学をしたり新たな知識や思考を持つ若手の醸造家は重要な役割を担っています。

モルドバの民家

次回、モルドバワイン特集 Vol.3(産地、土着品種)に続く

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