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テイスティング表現で気になる 「ワインの香りと臭」とは?「還元臭」「獣臭」は誉め言葉?

ワインの基礎知識

ソムリエ・ワインエキスパート資格取得の勉強で必要なテイスティング。その表現に使われる言葉が気になった事はありませんか?そのワインを誉めているのか、残念なのか、その表現の分類を解説

テイスティングの表現にある「香りと臭」は微生物由来・野生や人的な酵母から来と言われますが、どんな香りの分類があるのか?いい匂いで表す表現もあれば、土臭い、プラスチックや灯油、猫の尿、ネズミ臭など、聞いてみたらマイナスなイメージの表現もあります。獣臭は誉め言葉?欠陥臭はどんなもの?と疑問に思う表現を解説します。

テイスティング表現は公式の言葉がある?それは世界共通なのか?

ワインのテイスティング試験ではどれでもたいてい、どのような香りがするのか表現することを求められます。例えば白ワインでしたら、「レモンやグレープフルーツなどの柑橘果実にアカシアのような花の香り」などと表現されます。

しかしワインはブドウ100%のお酒。レモンもアカシアも入っていませんし、もちろん漬け込んでいたわけでもありません。それでも確かにワインには、ブドウそのもの以外の香りを含んでいます。原因はアルコール発酵やそれに付随するプロセスによって、ブドウにある前駆体が変化して香りを放つようになるからです。

果実や花、スパイス、さらには動物を化学的に分解すればおのおのの持つ化学物質はそれぞれ共通していてもおかしくありません。例えば、ソーヴィニヨン・ブランの香りを特徴づけているチオールという物質はパッションフルーツやツゲの香り成分とされています。シラーにみられる黒コショウの香りはロタンドンという物質で、やはりコショウの香味成分です。

しかしだからと言ってこのワインはチオールの香りがする、と表現してしまうと、高度な化学の教育を受けた人でなければわかりません。そのため多くの人がわかる身近なもの、つまり、レモンやアカシアという言葉を借りてワインの香りを表現するようになったのです。

身近な言葉を拝借してワインを表現することは一見便利なようで、実際には限界があります。果実だけでみても、世界の地域によって一般的に流通しているものは違います。例えば、ドイツのジルヴァーナで造られる白ワインの香りを、同国の名物であるホワイトアスパラと表現しますが、多くの日本人にはピンとこないでしょう。逆に日本の甲州ワインを吟醸香と表現することがありますが、日本酒好きでない限りドイツ人にはわからないでしょう。

ワインの香りや味わいに関するコミュニケーションを円滑にするため、日本ソムリエ協会(JSA)はフランスに倣ってテイスティング用語を一覧にして規定しています。実際にソムリエやワインエキスパートの二次試験ではいくつかの単語からそのワインに適切なものを選択するようになっています。もし受験者が自由にテイスティングコメントを記述できるようになってしまうと、採点者次第で点数が変わってしまうからです。

ロンドンに本部があり、世界70ヵ国に受講生がいるWSETのテイスティング試験では、記述式となっています。しかし自分が感じたものを自由に表現していいわけではなく、WSETがリストにて推奨する単語を使用することが求められます。WSETは世界中のさまざまな文化圏で教育をしているため、この推奨リストはJSAよりもはるかに単語数が少ないのが特徴です。

このようにワインの組織や教育機関によってテイスティング用語がある程度規定されており、世界共通のものは存在しません。知覚的な言葉なので、公式表現というのも特にありません。ただし大きな違いがあるというわけでもなく、JSAとWSETでローヌのシラーの香り表現が大部分異なるわけではありません。むしろほとんど同じと言ってもいいでしょう。

表現とその分類(香り・味わい・余韻など)

ワインは何千年も前から飲まれていましたが、今のように細かく表現されるようになったのはつい最近のようです。ボルドーのトップシャトーやシャンパンは何百年も前から高く評価されてきましたが、どうやらテイスティングコメントは必要なかったのでしょう。

諸説ありますが、おそらくワインそのものに対するテイスティング表現は戦後ではないかと考えられます。それ以前の20世紀初頭にもワインの書籍は多数出版されていましたが、文学的で、いかにワインというものが素晴らしいかという情熱的な賛辞がほとんどでした。

17世紀のイングランドの文献を調査したところ、「ワインには甘い、強烈な、渋い、穏やかな、という4つの味がある」と記述されています。1971年に刊行された英評論家ヒュー・ジョンソンの『世界のワイン図鑑』にてテイスティング用語が提示されました。しかしこの時ですらまだ80語もありませんでした。しかしここから急速に語彙が増えます。

転換期はアメリカのロバート・パーカーが登場してからでした。彼はワインを100点満点で評価し、フルーツやナッツの風味表現を取り入れた明解なテイスティングノートが非常に有用と認められたからです。イギリス人の文学的な表現では、アメリカ人はそのワインを飲めばいいかわからないというパーカーの切望なのです。

その後、カリフォルニア大学デーヴィス校のアン・ノーブルが『アロマホイール』を開発しました。今までに何度か変更はされているものの、現代でも世界中で利用されているワインの香りリストで、JSAやWSETの提示するものと共通しています。

中心円内の概念的な用語類(果実香、スパイシーなど)からワインに合う用語を見つけ、外側の円の具体的な用語類(レモン、リコリスなど)から合うものを見つけていくことで、誰でも容易に感じ取ったものを言葉で表現できるようになります。一通りの用語を網羅しているのも大きな特徴です。

香り以外でもテイスティング表現に変化が出てきました。昔から甘いや酸っぱいなどの知覚表現はありましたが、それに加えてテクスチャーやストラクチャーといった味覚ではない味わい表現が加わりました。やはりパーカーの影響があります。滑からなテクスチャーとか硬いストラクチャーなどと形容詞で表現されますが、ビロードのようなとか城壁のようなと、ここでも比喩的表現を用いてより伝わりやすいテイスティングコメントをする場合もあります。

ワインの余韻について語られるようになったのは、いつごろかは定かではありませんが、少なくとも現代では品質評価の上で重要視されています。一般的には心地よい風味がいつまで残り続けるかを基準としており、不快な場合は余韻の長さに含みません。ただし風味の残り方は曖昧であり、大橋MWは酸味がいつまで残り続けるかが重要だとしています。

ワインを最高!と誉める表現と、残念!と思う表現

最高のワインには最高のテイスティングコメントをしたいところですが、飲み手によって受け止め方が違うということを前提にする必要があります。一般的にはトリュフやスーボワの表現は最上級の赤ワインに対して与えられるとされています。白ワインだと蜂蜜やマッシュルームです。これこそまさに人それぞれですが、どうやらフルーツのイメージから離れているほど最高峰のワインの表現となる傾向です。

トリュフとかマッシュルームの香りは必ずしも最上級のワインのみに存在するわけではなく、限界があります。それこそまさに20世紀以前にみられた、情熱に満ちた文学的表現の方が正しく伝わるかもしれません。例えば、「このモンラッシェはまるで雪解け時期のアルプスの眺めるかのような尊大さだ」と言うように。むしろ褒めるにあたっては表現のルールを超えてもいいのではないでしょうか。

一方で残念と思う、厳密には残念というより返品すべき香りの代表格はブショネです。トリクロロアニソールという原因物質により、ワインがカビ臭く、または濡れた段ボールや古い家の埃をたたいたかのような香りとも表現されます。文字通りブショネと呼んだり、そのままカビ臭い、埃臭いとも言います。

議論が活発になるのは受け手次第でポジティブにもネガティブにも聞こえてしまうワイン表現です。具体的には獣臭(または馬小屋)、土、プラスチック、灯油、猫の尿、ネズミ臭などです。

獣臭と表現されるときは、少なくともそう表現した本人は肯定的で誉め言葉として使っていることが多いです。野性的で複雑、そして個性的な香りです。ブレタノミセスという酵母の一種が原因で、ブレット臭とも呼びます。基本的には醸造学的には欠陥です。しかしわずかな量であれば、シラーなど一部の品種であれば肯定的に受け止められます。しかしピノなどエレガント系品種にはほぼマイナスしかありません。また白ワインではほとんど発生しません。

土の香りの表現はほぼ肯定的なニュアンスで使用されます。若いワインではあまり出てこないので、付加価値的な意味もあります。湿った土と表現されることもありますが、もちろんいい意味です。ただしブレット臭の意味合いで使用されることもあります。フルーティーな白ワインではほぼ出現しないので、もし出たら欠陥臭という扱いにした方がよいです。

プラスチックの香りは主にボトリティス・シネレア菌に感染した貴腐ワインに使うことがあります。しかし貴腐ワイン自体が高級で高価なワインなので、プラスチックという言葉はチープであまり肯定的ではありません。必ずしも欠陥というわけではありませんが、使用頻度は低くなりつつあるようです。

灯油または機械油の香りは主にドイツの熟成した高級リースリングに使用されます。もちろん品種の個性を高く評価しての肯定的な表現で、ネガティブ要素はありません。しかしワインの香りに機械油は似つかわしくなく、ぺトロール香と呼ばれます。ワイン関連の書籍ではぺトロールという言葉が一般的です。しかしぺトロールと言われてもわからないため、一部ではキューピー人形の香りと表現されることもあります。

猫の尿はフランスの清涼感あるソーヴィニヨン・ブランのワインに使用されます。フランス人は決してネガティブな意味で表現しているわけではなく、特徴づける意味で使用しています。ブドウ品種由来の香りなので、欠陥でもなんでもありません。しかし本当にそう感じたとしても、尿という言葉を聞いて快く感じる人はいないので、最近ではほとんど見かけなくなりました。

ネズミ臭はネガティブだと断定はできないものの、ほとんどそのように捉えてもいいかと思われます。文字通り不快なだけでなく、衛生的に大丈夫なのかと疑ってしまうくらいです。いわゆるナチュラルワインにみられるものであり、それゆえに肯定的に捉える人もいますが、ほとんどの人は不快に感じるようです。二酸化硫黄の使用量が少ないと、微生物の作用によって生じてしまう香りであり、欠陥臭扱いしてもいいかもしれません。

他にも濡れた運動靴や血などと表現されるワインもあり、もちろん悪い意味で使っているわけではないのですが、食欲が下がるだけなので、やはりこれから飲もうとする人に対しては控えられるべき用語です。

まとめ

ワインはコーカサス、そしてヨーロッパ、戦後には世界中で愛飲されるようになり、もはや嗜好品を超えて文化そのものでした。しかし現代のようなテイスティング表現がつい最近のこととはちょっと意外かもしれません。

アロマホイールのような用語リストは、実はお酒ではビールが最初でした。その特性と品質を正しく表現し、共通言語化する必要があったからです。その後シードル、ウイスキーと続きました。そしてウイスキーのアロマホイールを基にしてアン・ノーブルのアロマホイールが完成したのです。

今では日本酒でもワインのように香りや味わいを表現しますが、愛好家の中には、日本酒は理屈ではなく感性で飲むものだと主張する人もいます。近代以前のワイン業界もきっとそうだったのかもしれません。

しかしワインのテイスティング用語が整理されてきたからこそ、ワインの非生産国でも飲まれるようになったのは事実ですし、売り手は売りやすく、買い手は買いやすくなりました。

テイスティング用語には正直な表現と考えますが、その表現が決してまずいものと捉えず、客観的な表現として受け入れましょう。

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