クロアチアワイン特集 Vol.2(産地 沿岸部)
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クロアチアのワインについて、全4回に分けて特集していきます。
今回は、クロアチアワインの産地、沿岸部を地図を交え解説していきます。
Vol.2 目次
・クロアチアの産地
〈沿岸部〉
1.南部ダルマチア SOUTHERN DALMATIA
2.中部ダルマチア CENTRAL DALMATIA
3.北部ダルマチア NORTHERN DALMATIA
4.ダルマチア・ザゴラ DALMATIAN ZAGORA
5.クロアチアン・プリモリエ CROATIAN PRIMORJE
6.イストリア地方 ISTRIA
クロアチアの産地
〈沿岸部〉
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1.南部ダルマチア SOUTHERN DALMATIA
主な黒葡萄品種
・プラヴァッツ・マリ(Plavac mali)
主な白葡萄品種
・ポシップ (Pošip)
・グルク (Grk)
・マルヴァジア・ドゥブロヴァツカ Malvasija Dubrovačka
主要産地
・ディンガッチ( Dingač)( ペリシャッツ(Pelješac)半島 )
・ポストゥップ(Postup)(ペリシャッツ (Pelješac)半島)
・コルチュラ(Korčula)島
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葡萄栽培とワインの生産は、ギリシャからの入植者によってこのエリアにもたらされました。当時、ワインの中心となっていたのはギリシャ人集落があったツァヴタット(Cavtat)とコルチュラ(Korčula)島でした。歴史上の争乱やオスマン帝国の影響を受け、沿岸エリアはかなりのダメージを受けたものの、ドゥブロヴニク共和国が葡萄栽培の保存にあたっていました。この地域は典型的な地中海性気候ですが中部ダルマチアに比べると若干湿度があり少し涼しい特徴があります。このエリアの主力であり、世界中のワイン愛好家から「クロアチア最高の赤ワイン」、「クロアチア黒葡萄の王」などと呼ばれるプラヴァッツ・マリ(Plavac Mali)種は特に有名です。
ペリシャッツツ半島の内陸部は比較的肥沃な土壌で、タンニンが柔らかく、早飲みタイプのプラヴァッツ・マリ種の赤ワインが造られます。一方、石灰岩の上の薄い表土覆われたディンガッチ(Dingač)やポストゥップ(Postup)の畑で栽培されたプラヴァッツ・マリ種からはしっかりとした骨格と豊富なタンニンを含んだワインが生まれ、最高品質のワインとしてクロアチアの人々に愛されています。特にディンガッチは 50 度以上の急斜面で葡萄が栽培されており、命綱をつけながら畑仕事がおこなわれることもあります。
ポシップ(Pošip) 種は、クロアチア国内では最高品質の白葡萄品種として確固たる地位を築いています。まだ輸出はあまりおこなわれていないもの、非常に潜在的な魅力を持った葡萄品種です。生産高も少しずつ伸びを見せており、ペリシャッツ半島の西に位置するコルチュラ島でその多くが生産されています。
2.中部ダルマチア CENTRAL DALMATIA
主な黒葡萄品種
・プラヴァッツ・マリ(Plavac mali)
主な白葡萄品種
・ヴガヴァ (Vugava)
主要産地
・イヴァン・ドラッツ(Ivan Dolac)(フヴァール(Hvar)島)
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クロアチアの葡萄栽培とワイン生産の起原は、まさにこの地域にルーツがあります。ヴィス(Vis)島やブラチ(Brač)島に古代ギリシャ人が入植しました。かなり早い段階からこのエリアのワインの評判が高く、クロアチアワイン発祥の地の一つとして知られています。葡萄のグラスが描かれたコインや、ワイン消費に関する数え切れないほどの出土品が、ワインがこの地に深く根ざしていたことを証明しています。畑の環境面では、少ない降水量と暑さが厳しく、乾燥した夏が特徴の典型的な地中海性気候で、石灰土壌を覆う赤色土や褐色土など様々な地質が見られます。フヴァール島のイヴァン・ドラッツ(Ivan Dolac)は海岸近くの傾斜地で葡萄が栽培されており、晴天率が高くクロアチア随一の日照量を誇ります。海が近くにあることから気候が安定し極端な気候変動が避けられ、葡萄の栽培に不可欠な風通しの良さを確保することができます。石灰岩を薄く覆う土壌はディンガッチと同じで収穫量が少なく、最高級なプラヴァッツ・マリ種を産出します。
この地域で注目される白品種はヴガヴァ(Vugava)種です。ヴィス島のみで栽培されており、収穫量もあまり多くはありません。その昔ヴガヴァ種のワインは高い糖度とアルコール度数が特徴でこれが自然の保存料の役割をなし、このワインの長距離輸送を可能にしました。近年は辛口タイプも造られ、ヴガヴァ種が本来持つ濃厚で芳醇な味わいを楽しむ愛好家が増えてきています。
このエリアで忘れてはならないのが、ショルタ(Šolta)島の黒葡萄品種、ドブリチッチ(Dobričić)種です。現在、同種を栽培する農家が少なく、あまり出回っていない品種ですが、究極的に濃いワインで、地元では紫ワインと呼ばれています。この品種はもう一つ重要な役割を果たしています。この葡萄はダルマチア地方で最重要品種であるプラヴァッ・マリ種の親にあたり、ドブリチッチ種とツゥリエナック・カシュテランスキ(Crljenak Kaštelanski)種(= ジンファンデル種)の掛け合わせがプラヴァッツ・マリ種となります。
3.北部ダルマチア NORTHERN DALMATIA
主要黒葡萄品種
・バビチュ(Babić) ・シラー (Syrah) ・グルナッシュ (Grenache)
主要白葡萄品種
・デビット (Debit) ・マラシュティナ (Maraština)
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北部ダルマチアの赤ワインはタンニンが強いフルボディなワインではなく、プラヴィナ種のように生き生きとして、優しく滑らかな味わいのものが多く生産されています。白葡萄品種としては、マラシュティナ (Maraština)種がこのエリアでは多く栽培されていて、濃厚で色が濃い南の品種に比べ、冷涼さを感じるワインに仕上がります。
また、シベニクの南にあるプリモシュテンは石垣で囲われた美しい葡萄畑が有名で、ニューヨークの国連センターにはプリモシュテンの葡萄畑の写真が飾られています。ここは黒葡萄品種のバビチュ(Babić)種が多く栽培されています。
バビチュ種の由来はパグ島にあり、北部ダルマチア原産の土着品種です。プラヴァッツ・マリ同様肥沃な土壌で栽培されると平凡な品質のワインになり、表土の薄いゴツゴツした岩に囲まれた土壌で栽培されると品種の個性が発揮されます。近年クロアチア国内で注目を集めているのが、白葡萄品種のデビット(Debit)です。果皮が厚く、比較的酸度、糖度が高いため辛口~甘口のプロセッコに利用されることがあります。ダルマチア北部は国際品種も活発に栽培されており、メルローや、フランスの南ローヌと北部ダルマチアの環境が似ていることからシラー、グルナッシュも30年以上にわたり存在しています。
4.ダルマチア・ザゴラ DALMATIAN ZAGORA
主要黒葡萄品種
・トゥルニャック(Trnjak) ・メルロー (Merlot)
主要白葡萄品種
・クユンジューシャ (Kujundžuša)
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このエリアは海に面しておらず、沿岸部とは違った形で葡萄栽培の文化が進みました。特に土着品種の保存に力を入れていて、白葡萄のクユンジューシャ(Kujundžuša)種や黒葡萄のトゥルニャック(Trnjak)種は地域をあげて保存に取り組んでいます。土壌は石灰岩を中心に表土は赤土をはじめとする多種多様な土が薄く広がっています。地中海性気候で乾燥していて夏は沿岸エリアに比べ、日中の気温がかなり高くなります。また秋には氷がはり、春には霜が降りることもあり、内陸性気候の特徴も持ち合わせています。クユンジューシャ種のワインは酸度、アルコール度数があまり高くなく、ライトな柑橘のフレーバー、ちょうど良いミネラルが特徴です。トゥルニャック種はブラックベリーやラズベリーのようなベリー系のフレーバーで上品さがあり、果実味があふれ、調和の取れたフルーティーな味わいです。
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5.クロアチアン・プリモリエ CROATIAN PRIMORJE
主要白葡萄
・ズラフティナ(Žlahtina) ・ゲギッチ(Gegić)
非常に長い葡萄栽培の歴史があるものの、このエリアは19 世紀後半のフィロキセラの被害で壊滅的な被害を受けました。
特に土着品種は大幅に失われましたが、白葡萄のズラフティナ(Žlahtina)種や同じく白葡萄のゲキッチ(Gegić)種などは一部の地域でかろうじて生き残りました。当時と比べれば、生産量も回復してきており、特にズラフィナ種はクロアチアのレストランやワインショップのリストには欠かせない存在となっています。同種の優しく咲く花を思わせる香りや、熟した果実のフレーバー、滑らかな口当たりは多くのワイン愛好家を魅了しています。もう一つの主要品種である、ゲギッチ種はパグ島原産。何年もこの地域で栽培されていましたが、近年クロアチア国内で多く見かけるようになりました。ミネラル感、果実の芳醇なアロマからスパイシーなニュアンスまで感じさせる独特な香りが特徴です。
6.イストリア地方 ISTRIA
主要黒葡萄品種
・テラン (Teran)
・メルロー (Merlot)
・カベルネ・ソーヴィニヨン (Cabernet Sauvignon)
主要白葡萄品種
・マルヴァジア (Malvazija)
・ムシュカット (Muškat)
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イストリア半島の南プーラの街の近くにカラヴォイエナ湾があります。古代ギリシャ語で「ワインの港」という意味です。
その名が示すようにイストリア半島では古代まで遡ることができます。ここの伝統的なワイン産地はウマグなどの西部の沿岸部を中心に広がります。温暖なアドリア海の恩恵を受け、熟した果実のエキゾチックなワインから柑橘系のさわやかなものまで様々なワインを見ることができます。逆にチチャリヤのふもとに位置するイストリア半島中部の葡萄畑では海からの直接的な影響は受けない内陸性気候で、山間の渓谷地帯では霧がかかることが多く、夜間の気温は急激に下がります。キレがありミネラルが豊富でクリスピーなワインが造られます。
イストリア半島全体で栽培されているのは白葡萄のマルヴァジア種と黒葡萄のテラン種。この2種類の葡萄品種は前述のイストリア半島ならではの気候に非常によく合い、イストリア産ワイン主役となっています。
出典:Wines of Croatia / Croatian Chamber of economy 日本ソムリエ協会教本
次回、クロアチアワイン特集 Vol.3(産地 大陸部)に続く