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日本トップレベルのコーヒーロースターがワイナリーに転職したワケ 

トピックス

2022年現在、日本国内にワイナリーは300軒以上あり、日本ワイン市場は年々盛り上がりをみせています。必然とワイナリーに新規参入者として働く人の数も増えています。
新規参入する生産者は、一体どんな動機でその地に足を踏み入れるのか、どんな夢や希望があってワイン造りに人生を懸けるのでしょうか。今回は日本ワインの未来を担う生産者にインタビューしました。

第一回目は、長野県東御市のヴィラデストワイナリーに転職した齋藤淳さんをピックアップ。20代の頃、コーヒーロースターとしてキャリアを積んできた彼が、なぜワインに惹かれ、ワインを生産する側に回ったのか、そして長野県というワイン産地の可能性、日本ワインの未来についてインタビューしました。

コーヒーロースターからキャリアを積み、ワイン業界へ

ーキャリアスタートは「コーヒーロースター」。なぜコーヒーロースターに?
もともとコーヒーが好きで、20代の頃、某雑誌のコーヒー特集を片手に都内のコーヒーショップをよく巡っていたんです。その時に飲んだ1杯のコーヒーに感銘を受けました。そこでその場で採用面接をお願いしたんです。
ーすごい。ドラマチックですね。
無理言って話を聞いてもらいました。熱意が伝わったのか、その場で採用いただきました。そのお店は、渋谷ヒカリエにあるコーヒー世界チャンピオンが監修するカフェロースタリーでした。北海道から沖縄まで、全国から一流のバリスタを目指すスタッフが沢山いました。バリスタになる為には、ヘッドロースターの設けた認定試験をいくつもパスしなければいけませんでしたが、全てをパスすることはできませんでした。
それでも、朝早くから夜遅くまでの営業時間外で「カッピング」という味わいを捉えるスキルを磨いていたのを買われて、最も重要なロースターのポジションを経験させていただくことになりました。それから退職するまでの1年半はめまぐるしい修行の日々でした。でも今思えば、あの時の試行錯誤しながらのハードワークが、今の私のクラフトマンシップの根底となっています。
ーなるほど。がむしゃらに仕事に向き合っていた時期が齋藤さんの土台になっていたんですね。
その後、2015年10月に、新宿にコーヒーショップを開業しました。ロースター兼バリスタとして、海外イベントに日本代表として出店したり、COFFEE COLECTION DISCOVER 2016 という国内外のコーヒーロースターが焙煎豆のブラインド評価をする大会で、トップ5に選出されることもありました。コーヒーの抽出技術を競うハンドドリップの東京大会での優勝等も含めて、日本トップレベルのコーヒーを新宿という場所で提供していたことは誇らしく思います。

ー素晴らしい実績の数々。コーヒーロースターとしてのキャリアは申し分ないですね。
第一線に立ち続けることと、自分の求めるクオリティとお客様のニーズとのギャップに不安を感じ、かつては味覚障害になってしまうほどだったのですが、そのタイミングで一度がっつりコーヒーと距離をおくことにしました。それでも私のコーヒーを求めてくれる人は途絶えず、本業ではないながらも自分や身近な人達が楽しめるぐらいのコーヒー豆を焙煎したり、コーヒーイベントをしながら、他の仕事をしてみようと考え始めました。
そして30代を節目に、ワインショップへ転職しました。店舗リーダーとして、企画・選定や日本ワインのワークショップを担当しました。そして2022年の4月より長野県東御市のワイナリーに転職し現在に至ります。
ーコーヒー業界からワイン業界へ。嗜好品という意味では似ている部分は多いですが、なぜ「ワイン」に興味を持ったんですか?
コーヒーもワインも嗜好品であり、飲むシチュエーションによって、様々な幸福感に生む「人生を豊かにするもの」だと思います。そして、どちらも大元を辿っていくと「農作物」が原料です。
ワインに興味を持ったのは、同じヴィンテージでブルゴーニュのピノノワール品種を飲み比べしたときに、同じ土地で造られた同じ品種のワインにはっきりとした味わいの差を感じたのがきっかけです。
ー土地や品種が同じなのに、どうして味も香りも違うんだろうというのはコーヒーにも同じことが言えますもんね。
コーヒーロースターである私にとって、香りや味の違いはどこから生まれるのかを知りたくなるのは宿命とも言えるかもしれません。テロワールの違いによって何がどう変わるのかとあれこれ考える時が一番楽しい時間です。味わいのルーツを探る楽しみが、そのまま興味になりました。

いつかは「ヴィニュロン」になる夢を携えて

ーワインを売るのではなく、ワイナリーで働こうと思ったきっかけはなんですか?
前職で日本ワインのワークショップを担当したことがきっかけでした。もともと、コーヒーの仕事をしていた時の、コーヒーロースターとしてのクラフトマンシップと、日本のワイナリーの世界から見た位置づけと、今後の展望に非常にワクワクさせられて、自分もいつかは“ヴィニュロン”(自らの手で育てた葡萄でワインをつくり、販売する人のこと。)になろうと考えるようになりました。
ーなるほど。「日本のワイナリーの世界から見た位置づけと今後の展望」とのことですが、齋藤さんは日本のワイナリーの位置づけをどのようにとらえていますか?
世界から見てもまだまだ歴史が浅いと思います。
ワインショップで働いていた時にお客様がおっしゃっていたのが、海外ワインと比較した時の割高感。しかし、そういった方に限って、過去の苦い思い出話が多かった気がします。
こういったメディアで取り上げていただくこともそうですが、そういった苦い思い出を、どのように払拭させられるか。そして、その時に期待以上の味わいのワインをしっかり市場に出せるか。という意味ではワイナリーはもちろん、発信する業界関係者やメディアも重要だと感じています。
また、栽培データや適正品種の試験において、世界に遅れをとっている日本ですが、コーヒーの時の経験から、日本人の味覚と創意は世界一だと自信を持っています。コーヒーカルチャーも世界に遅れていた日本ですが、この10数年で発信する側にまでのぼりつめました。
気候のハンディキャップも、日本人ならではの味覚センスと創意工夫で世界に誇る一大産地になっていくことと思います。それに伴い、日本産ワイン原料用ブドウとしてO.I.Vのブドウ品種リストに載った「マスカット・ベリーA」や「甲州」もより多くの外国人に認知され、日本ワインが世界のワインマーケットに並ぶことになると期待しています。
間違いなく今以上に、ワインラヴァーを語るうえでも目が離せないのが日本ワインです。

日本ワイン、そして長野県の可能性について

ー長野県は山梨に次ぐ2番目のワイン産地、そして優れたワイナリーがたくさんありますよね。
長野ワインは、専用のWebページがあるぐらいプロモーションに力をいれているワイン産地です。また、長野は地理的表示基準(GI)も定められています。
とは言え、東御市にいち早くできたヴィラデストですら、この土地に合った新たな品種を探っている段階です。今後はより各ワイナリーの個性が増していき、切磋琢磨していく段階にあるかと思います。
気候に関しては、雨量の少なさや標高の高さ等の好条件は良く耳にしますが、現場にきて一番感じるのは風の強さです。病気になりにくい乾燥した環境下ならではの選択肢があるのも魅力の一つです。
ー日本ワインの今後の課題はなんだと思いますか?
まだ、私自身業界に入ったばかりの身ではっきりと分かっていませんが、ワインショップで働いていた時に感じたことは、ロット数の縛りと、掛け率の高さから、酒販店での取り扱い露出が少ないことは一つ挙げられるかと思います。これに関しては、改善の為の各所の動きもありますので、時間の問題かと思います!
また、近年トレンドの「ワインツーリズム」は非常に可能性があると思っています。ヴィラデストワイナリーもそうですが、カフェを併設しているワイナリーも数多くあります。より多くの人に足を運んでいただけたら、ワインをより楽しんでいただけますよね。

ー「カフェ×ワイナリー」は齋藤さんのキャリア的にも強みが生かされますね。やはり将来的にはご自分のワイナリーを持ちたいと思いますか?
もちろん縁があれば自分の畑を持ってみたいですが、まだ何も分かっていないので言えることかもしれません。ヴィラデストの姉妹ワイナリーで開催している千曲川ワインアカデミーの卒業生や、ヴィラデストOBの方々も独立されて、近辺でワイナリーやぶどう畑を始める方が多くいます。今はとにかく、ぶどうを観察して、根を生やしていくことだけ考えています。
日本人の食卓に合う、上質な酸を持った親しみやすいワインを造ってみたいです。高級ワインにも憧れはありますが、具体的には赤で言うところの、パストゥグランやバルベーラ品種のようなワインですね。まずは、勉強畑の隅っこの一角を借りて、ガメイ品種の苗木を植えたところです。
ーありがとうございます。まずは1年目、ヴィニュロンになるためのノウハウをたくさん吸収する時期ですね。今後はどんな作業をしているのか、より深堀りしていけたらと思っています。
少しづつ畑の中に馴染んで、日々、木の観察とデータの蓄積をしていきたいと思います。一年のサイクルで、ブドウの成長に合わせて作業もどんどんと変化しています。機会がありましたら、栽培のそこんところどうなの?といった疑問点を皆さんに伝えられたらと思います。頑張ります!!

プロフィール:齋藤 淳(さいとう じゅん)

1989年生まれ。コーヒーロースターとしてキャリアを積み、ワインショップ勤務を経て、ヴィラデストワイナリーへ転職。毎朝自分で焙煎したコーヒーを飲むほど、コーヒーにこだわりをもつ。愛犬はゆば(マルチーズ)。今までで最も感動した白ワインはエティエンヌ・ソゼ シャン・カネ 1997。いつか日本を代表するヴィニュロンになることを夢見て、長野県東御市の「ヴィラデストワイナリー」で修行中。J.S.A ワインエキスパート

ヴィラデストガーデンファームアンドワイナリー

https://www.villadest.com/
〒389-0505 長野県東御市和6027

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