Vol.19 ワインの購入・保管・熟成・販売、チーズ、ソムリエ職責とサービス実技
ワインの専門家であるソムリエにとって、ワインだけでなくワインと合わせて提供する機会が多いチーズの知識、ワインの品質管理といった情報もしっかり押さえておきたい分野です。
この記事では、チーズやワイン管理について解説します。
目次
1.チーズ
2.ワインの購入、保管、熟成、販売
3.ソムリエの職責とサービス実技
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チーズ
チーズとは「乳を原料として乳酸菌や凝乳酵素などによって凝固させ、ホエイ(乳清)の一部を取り除いたもの、またはそれらを乳酸菌やカビ等の微生物で発酵・熟成させたもの」で、乳からつくられるチーズは、その原料となる乳の性質を色濃く反映します。
日本では、食品衛生法に基づく「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」において、チーズとはナチュラルチーズおよびプロセスチーズを指すと定義されています。ここではナチュラルチーズに焦点を当てて見ていきましょう。
チーズの歴史
チーズは、家畜化し肉利用として飼われていた野生動物の羊や山羊や牛が搾乳可能な動物だったことから、乳利用文化の中で生まれました。誕生したのはメソポタミア文明の地で、古代エジプトや古代ギリシャで乳利用文化が伝承していきました。
古代ローマ人はギリシャ文明とエトルリア文化を融合させながら独自のチーズ文化を築き、やがて熟成したチーズを生産するようになります。ロワール川流域では8世紀初頭トゥール・ポワチエ間の戦いの際に、敗戦したイスラム教徒たちが残した山羊からシェーヴルをつくるようになり、ロワール川流域はシェーヴルの名産地となっていきました。
中世のチーズ造りは修道院が大きな役割を果たしました。当時チーズは庶民の食べ物でしたが、ブリやロックフォールといったチーズは、8世紀のシャルルマーニュ大帝をはじめ、上流階級や王侯貴族に愛されました。
西アジアから西欧へは搾乳酵素によるチーズづくりが広がり、東欧からロシア地域は酸による凝乳を利用したチーズづくりが行われたと考えられます。アジアにはモンゴル方面とインド方面に伝播しました。モンゴル方面では遊牧民が羊や山羊の乳から酸による凝乳の乳加工が、インド方面では凝乳酵素を使わない酸による乳加工が定着しました。
ナチュラルチーズの分類
ナチュラルチーズは、次の9つに分類されています。フランス語での表現と特徴をまとめましたのでしっかり確認しておきましょう。
フレッシュタイプ | Fromage frais フロマージュ・フレ | ミルクを乳酸菌や凝乳酵素を使って固め、ホエイを排出したつくりたての未熟成チーズ。水分を多く含み、製菓材料や料理に使われることが多い。 |
ソフトタイプ | Fromage à pâte mole フロマージュ・ア・パット・モール | 自然な表皮で表面が形成されている。 シェーヴル、白カビ、ウォッシュもソフトタイプに含まれる。 |
白カビタイプ | Fromage à pâte mole à croute fleurie フロマージュ・ア・パット・モール・ア・クルート・フルーリー | ソフトタイプの一種。熟成が進むと白カビ菌が分解したたんぱく質がさらに熟成して アンモニアが形成される。ペニシリウム・カンディダムと呼ばれる菌を表皮に噴霧して熟成させる。 |
ウォッシュタイプ | Fromage à pâte mole à croute lavée フロマージュ・ア・パット・モール・ア・クルート・ラヴェ | ソフトタイプの一種。ミルクの段階でリネンス菌を混ぜて凝固させ、型に入れてホエイを排出した後、肩から出して塩を加え表面を塩水かお酒で洗いながら熟成させる。 |
シェーヴルタイプ | Fromage de chèvre フロマージュ・ド・シェーヴル | 雌山羊の乳でつくったチーズを指す。さらさらとして飲用に向いているが、大型のチーズをつくりにくく小型が多い。山羊の乳にはカロテンが含まれないので真っ白いのが特徴。 |
青カビタイプ | Fromage à pâte persillée フロマージュ・ア・パット・ペルシエ | ミルクの段階もしくは型入れする前の生地の段階で青カビ菌を混ぜ、熟成中に内部で青カビを繁殖させて仕上げる。ピリッとしたシャープで刺激的な風味が特徴。ペニシリウム・ロックフォルティと呼ばれる青かび菌が代表的。 |
非加熱圧搾タイプ(セミハードタイプ) | Fromage à pâte pressée non cuite フロマージュ・ア・パット・プレッセ・ノン・キュイ | 攪拌時を40度以下で行い、プレスしてつくるチーズ。ハードタイプよりしっとりと水分が残っている。 |
加熱圧搾タイプ(ハードタイプ) | Fromage à pâte pressée cuite フロマージュ・ア・パット・プレッセ・キュイ | 攪拌時に40度以上に上げて水分を飛ばし、プレスしてつくるチーズ。長期熟成によってさらに水分含有量が少なくなる。アルプスをはじめとした山岳地帯に多い。 |
パスタフィラータタイプ | Pasta Filata | 乳を凝固させた生地からホエイを排出させ、堆積した生地を発酵した後細かく裁断し湯をかけて練って伸ばす。 |
チーズに関する法律
1952年に主要チーズ生産国8カ国(フランス、イタリア、スイス、オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー)が「ストレーザ協定」を締結しました。それによりフランスのA.O.Cが強化され、イタリアのD.O.C.が整備されました。
1992年、EUはA.O.CやD.O.C.をベースとした品質保証システムを創設しました。EU未加盟のスイスは独自のA.O.C制度(現在A.O.P.)を2000年に創設しています。
各国のチーズ事情
フランスでは「1つの村に1つのチーズがある」と言われるほど種類が豊富です。その理由は気候風土が多様なためで、各地の気候風土に合わせてさまざまなチーズが生まれてきています。
各国の主要なA.O.P.チーズとワインについて、教本の表をしっかりチェックしておきましょう。
《教本参照》
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ワインの購入、保管、熟成、販売
ワインを楽しみ味わうには、状況や人に合ったワインの購入や保管熟成、販売について知っておくことが重要です。それぞれの項目に分けて基本的な内容を覚えておきましょう。
ワインの購入
ワインの購入は、買う人の立場(飲食店、酒販店、インポーターなど)によって状況が異なります。
飲食店にも様々な業態があり、取り扱っているメニューがフランス料理など伝統的にワインとの結びつきが強いものか、和食や中華料理など深い結びつきがないのかによってどんなワインを購入するかが決まります。生産量が少ないワインや人気のワイン、前年の購入実績による割当を持っていないと購入できないワインなどを揃えておくと話題にはなりますが、在庫調整や運転資金とのバランスを常に意識しておく必要があります。
お客様のニーズを的確にとらえ、提供する料理との相性を常に意識して選ぶことが重要です。
酒販店の場合は、大手スーパーやコンビニエンスストアといった生活物資を多く扱う店舗なのか、ワインショップといった専門色が強い店舗なのかによってお客様の層が違うため購入するワインのタイプを慎重に見極めることが大切です。また、ネットショップは価格だけで勝負するのは出口のない価格競争に巻き込まれる可能性が高いため、オリジナリティあふれる魅力的な品ぞろえが求められます。
インポーターとしてワインを購入する場合は、自社の特性や顧客ニーズを十分把握した上で購入先を選ぶ必要があります。長期間にわたって購入し続けることになるので、購入先の選定は重要です。提携せず仲買人経由で購入するなら、エリアによって買い方に特徴があるのでよく理解しておくといいでしょう。
注意したいのは、せっかく購入したワインが日本で販売できなくなる事態が起こり得るということです。その要素は3つあります。
食品添加物 | 指定添加物、既存添加物、天然香料、一般飲食物添加物の4つに分類される。ワインに使用できる添加物と使用限度量は酸化防止剤保存料が0.35g/㎏未満、ソルビン酸保存料が0.2g/㎏以下、スクラロース甘味料が0.4g/㎏、安定剤増粘剤が2%。 |
農薬 | 799の農薬については基準範囲内、その他の農薬については厚生労働大臣が指定する65のポジティブリスト対象外の農薬を除いてすべて0.01ppmを超えて残留する食品の販売は禁止。 |
商標 | 地理的表示がないワインや地理的表示のあるワインでもブランド名称が造語や愛称など商標に相当するのであれば、商標登録の確認が必要。既に登録されていると国内では販売できない恐れがある。 |
受け入れる国内の諸条件が整っていよいよ売買となると、生産者とインポーターの間で購入価格や貿易条件を決定します。主な貿易条件を簡単にまとめましたので暗記しておきましょう。
EXW=Ex Works(Ex.Cellar) | 工場渡し条件 |
FCA=Free Carrier | 運送人渡し条件 |
FOB=Free On Board | 本船渡し条件 |
CFR(C&F)=Cost and Freight | 運賃込条件 |
CIF=Cost, Insurance and Freight | 運賃・保険料込条件 |
この他に、輸入品の仕入コストや生産者からの出荷輸送、輸入貿易実務の保険や船積み書類、通関や検品などさまざまなチェックが必要です。
ワインの保管・熟成
ワインを保管するにあたって、超長期にわたり熟成する保管と、作業の効率化を優先しながら品質を保つ保管とがあります。
熟成させる保管の場合、厳密な温度コントロールができる倉庫が必ず必要です。そして倉庫の建材や塗料は、TCA(トリクロロアニゾール)の発生要因を排除した材質であることも絶対条件です。温度や湿度、照明、振動、送風、臭気、ボトルの保管などに対する配慮が求められます。
品質を保つ保管の場合は、ワインセラーなどが知られています。熟成ができないわけではありませんが、精度の高い長期熟成用のセラーで熟成させたワインと比べると、熟成時のおいしさは異なります。
ワインの販売
飲食店におけるワイン販売では、お客様との接点はワインリスト、従業員による口頭でのおすすめ、テーブルテントやポスターなどのPOP類という3つが中心です。そしてワインを拡売するには、品ぞろえの充実、フードフェア時の季節感ある食材を使っての提案、料理人による旬の食材とワインがよく合う調理方法の習得などが挙げられます。
さらに売上と利益、計数管理についても意識しておく必要があります。
酒販店におけるワイン販売では、酒類販売管理者制度に沿って管理者を選任し、研修の受講を促す義務が課せられます。ワインの拡売策については、ワインと関連性のある催事や試飲会の開催、ワイン検定の実施、メールマガジンの登録者を増やすなど、業態に合わせるとともに強みを生かした提案が重要です。
日本人の一人当たり年間ワイン消費量は2016年の3.58ℓ から2017年は3.71ℓ に増加していること、日本へのワイン輸入量が多い国(数量が多い順に、チリ、フランス、イタリア、アメリカ)などワイン販売に生かせる知識として身につけておくと、他店との差別化が図れます。
<教本参照※主要国別輸入状況についてp.719>
ソムリエの職責とサービス実技
ソムリエの職責
ソムリエに求められる職責は少なくありません。店舗や組織に貢献するためには、単なるワイン係ではなく「なくてはならない存在」にならなければいけません。
シェフソムリエに求められるのは、お客様や取引先と円滑なコミュニケーションが取れるコミュニケーション能力、予算・在庫管理ができるマネジメント能力、販促のアイデアや広報活動など幅広いです。また、日々進化していくワイン業界に身を置くからには自己啓発は欠かせないので、A.S.Iディプロマやコンクールを目標として努力を重ねるのもひとつの方法です。
ワインのサービス
ソムリエの仕事においてもっとも難しいのは、お客様が何を望んでいるのかを察知しそれに適した提案と接客を行うことです。最適なワインの温度やワインの空気接触による変化を把握し、適したグラスを選択してサービスすることが求められます。
ワインのサービス実技の概要については、教本の内容に沿ってしっかり理解しておきましょう。
《教本参照》
・ワインサービスの中で最も重要な要素のひとつは供出温度です。各種ワインの適温の基本的目安を簡単にまとめましたのでチェックしておいてください。
(単位:Centigrade)
Vins Mouseuxヴァン・ムスー(発泡性ワイン) | 6~8 |
Champagnesシャンパーニュ | |
Ordinaireスタンダード | 6~8 |
Grande Cuvéeプレステージ | 8~12 |
Vins Blancs白ワイン | |
Liquoreux, Moelleux甘口 | 6~8 |
Sec辛口 | 6~12 |
Corséコクのある上級ワイン | 10~14 |
Jaune黄ワイン | 14~16 |
Vins Rosésロゼワイン | |
Sec辛口 | 8~10 |
Demi-Secやや甘口 | 6~8 |
Vins Rouges赤ワイン | |
Léger軽口 | 12~14 |
Bourgogneブルゴーニュ | 16~18 |
Rhôneローヌ | 16~20 |
Bordeauxボルドー | 18~20〈上級は高め〉 |
Porto(Vintage)ヴィンテージポート | 18~20 |
・ワインがもつ大きな特徴は、空気接触による変化が他の酒類と比べて大きいことにあります。空気に触れることにより、酸化による変化と還元による変化が起こり、特に香りに大きな影響を及ぼします。
・食前酒(Apéritifアペリティフ)の役目は食欲を促すことです。辛口のシャンパーニュやドライシェリー、酸味のある軽い白や赤・ロゼワイン、ヴェルモット、デュボネ、リレ、VDN、VDLなどが該当します。
・食後酒(Digestifディジェスティフ)の役目は食べたものの消化促進です。甘口のシャンパーュやシェリー、ポート、マデイラ、VDL、VDNなどが該当します。
それぞれの銘柄については教本でチェックしておくといいでしょう。
《教本参照》
ワインの管理やサービスのための備品
ワインサービスのための主な備品としては、ワインセラーやデイセラー、サービス用ワゴン、ソムリエナイフ、サービスナプキン、コルク栓置き皿、ワインクーラー、ボトル敷き皿、カラフェ、パニエ、キャンドル立て、じょうご、サービス用トレー、グラスとテイスティング用グラス、温度計などがあります。
サービスを行うにあたっては、ボトルサイズを覚えておくと便利です。シャンパーニュとボルドーのボトルサイズと名称、容量はしっかり覚えておきましょう。
《教本参照》