Vol. 2 ワイン概論、酒類飲料概論
日本の酒税法において、ワインは果実を原料とした醸造酒に分類されます。どのシーンにどういうワインが合うかを判断するには、まずワインそのものについて知ることが必要です。
この回では、まずワインの特性や原料であるブドウの種類、醸造工程、ワイン以外のアルコール飲料などワインと酒類飲料の概要を解説します。
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目次
1.ワインの特性と分類
2.ブドウの栽培
3.ワインの醸造工程
4.ワインの統計
5.ワインの品種別名
6.酒類飲料概論
1.ワインの特性と分類
ワインとはどういうお酒なのか、きちんと把握しておくことはソムリエをめざす上で欠かせません。この章では、ワインに関する基本的な情報を頭に入れて、どのような特性を持ったお酒なのかを説明できるよう理解することをめざします。
1-1.酒類、ワインの分類
日本では、酒類はビールなどの「発泡性酒類」、果実酒や清酒などの「醸造酒類」、ブランデーやウイスキーなどの「蒸留酒類」、合成清酒やみりんなどの「混成酒類」という4つに大別できます。
このうち、ワインは果実を原料とする醸造酒に分類されます。
大別される4つの酒類に該当するお酒の名前をしっかり覚えましょう。
そして、果実酒に該当するワインは醸造法の違いによってさらに4つに分類できます。Still wine(スティルワイン)、Sparkling wine(スパークリングワイン)、Fortified wine(フォーティファイド・ワイン)、 Flavored wine(フレーヴァード・ワイン)です。
また品質の違いにおいては、日常消費用とブドウの品種や産地等を指定した優良ワインに大別されます。 それぞれに属するワインの名前を整理して覚えておきましょう。
1-2.アルコール発酵
ワインは、ブドウの果汁に含まれる糖分を使って酵母がアルコール発酵し、エチルアルコールに変えることで酒類になります。その化学式は
C₆H₁₂O₆(ブドウ糖や果糖)→2C₂H₅OH(エチルアルコール)+2CO₂(二酸化炭素)です。
この化学式を提唱したのは、フランスのジョセフ・ルイ・ゲイリュサックです。その後、同じくフランスのルイ・パストゥールが、アルコール発酵は酵母活動によるものだと証明しました。
上記の二人の名前は、押さえておきたいポイントです。
さらに、1㎏のブドウから搾り取られる果汁が600~800mlであること、清酒やビールとは違って発酵に仕込み水を必要としないので、原料のブドウの個性がそのままワインの個性になることも覚えておきましょう。
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1-3.ワインに含まれる主な有機酸とポリフェノールの含有量
酸味がしっかりと感じられることは、ワインの大きな特徴のひとつです。ブドウが持つ酸はワインの重要な構成要素となります。ブドウ由来だけでなく、発酵時にも酸が生成されます。ワインに含まれる以下の有機酸をしっかり暗記しておきましょう。
ブドウに由来する酸 | 酒石酸、リンゴ酸、クエン酸 |
発酵によって生成した酸 | コハク酸、乳酸、酢酸 |
貴腐ワインに含まれる酸 | ガラクチュロン酸、グルコン酸など |
ワインが美容や健康にいいと言われる理由は、カリウムやカルシウムなどのミネラル分やアミノ酸類、たんぱく質などを含んでいるためです。活性酸素を消去するポリフェノールの含有量は、カベルネ・ソーヴィニヨンやネッビオーロなどの黒ブドウを使って造られたワインが高い一方で、白ワインは低いです。その代わり、白ワインは腸内細菌を整えて抗菌力を高める作用が赤ワインより高いです。覚えておきましょう。
1-4.ワインのラベルの記載義務事項とラベル表記の規定
国ごとに規制されたワイン法は2009年にEUで共有されました。ラベル表記の規定は、2009年に発効されヴィンテージから適用されています。義務記載事項と任意記載事項をそれぞれしっかり暗記しておくことが大切です。
・主な義務記載事項
製品のカテゴリー(ワイン、VDLなど)、A.O.P.やI.G.P.のワインはその表記の名称、アルコール度数、原産地、瓶詰め業者名(スパークリングワインの場合は生産者と販売業者)、スパークリングワインでは残糖量表示
・主な任意記載事項
収穫年、原料のブドウ品種、スパークリングワイン以外の場合の残糖量表示、A.O.P.やI.G.P.のEUのシンボルマーク、生産方法に関する記述
単一の品種名や収穫年は100%ではなく85%以上使用すれば表示できる点も忘れずに覚えておきたいですね。
1-5.残糖量の表示
ソムリエ試験では、スパークリングワインやスティルワインの残糖量についての出題率が高いです。その表記が意味する残糖量は1Lあたりどのくらいなのかをテキストの一覧表で確認しておきましょう。
例えばスパークリングワインの場合は「0~6g/L未満の残糖量のワインはExtraBrut」 「12g/L未満の残糖量のワインはBrut」といったように表示名と残糖量をセットで暗記してください。
1-6.ワイン産地の気候と気候区分
世界的なワイン産地における主な気候は、大陸性・海洋性・地中海性・山地の4つに分けられます。
気候区分は出題傾向が高いので、該当する産地や適合品種をまとめて覚えておく必要があります。
2.ブドウの栽培
ワインの原料となるブドウの栽培に関する項目は、ワインの知識の基本となる部分なので細かい部分までしっかり暗記しておくことが大切です。テキストのイラストや写真を見ながら、イメージと紐づけて覚えると理解が早いでしょう。
2-1.ブドウの品種
世界の主なブドウ品種を押さえておきましょう。
Vitis Vinifera(ヴィティス・ヴィニフェラ) | 中近東原産、ワイン用 |
Vitis Lubrusca(ヴィティス・ラブルスカ) | 北米原産、食用に多い |
Vitis Amurensis(ヴィティス・アムレンシス) | 東アジア |
Vitis Coignetiae(ヴィティス・コワニティ) | 日本の山ブドウ |
世界中でワイン用として利用されるブドウは1000種以上ありますが、ほぼヴィティス・ヴィニフェラ種に含まれます。そのうち現在でも栽培されているのは数百種で、実際にワイン醸造に使われるのは約100種です。
2-2.原料ブドウの断面図
ブドウの果肉や種子、果皮、梗といった部位別の名称は覚えておきたい項目です。加えて、粒の中でもっとも糖度が高い部分やもっとも酸度が高い部分、ポリフェノールが多い部分をあわせて覚えましょう。
2-3.ブドウの栽培条件
ブドウの栽培に関する条件は、次の4項目について暗記が必要です。
・気温
年平均気温は10~20℃、ワイン用ブドウ栽培では10~16℃が最適。
・日照
十分なブドウ成熟に必要な生育期間の日照時間は1000~1500時間。
・水分
ブドウの生育期間である初夏から秋までの降水量が少なく、それ以外の季節に年間で500~900mmの降水量が望ましい。
・土壌
保水性と排水性を併せ持つ団粒構造を持った状態で、ミネラル成分や各種微量要素のバランスが取れていることが望ましい。
2-4.ブドウの生育サイクルと栽培方法
ブドウの生成サイクルの流れを把握した上で、開花から収穫まで約100日必要であることを覚えておきましょう。
・休眠(冬/土寄せ (Buttage (ビュタージュ ) ) 、肥料散布、剪定 (Taille(タイユ ) )
・萌芽→展葉 (春/畝くずし(Débuttage(デビュタージュ )) 、整枝)
・開花( Floraison (フロレゾン))→結実(Nouaison(ヌエゾン))(夏/夏季剪定(Rognage(ロニャージュ)) 、摘房、除草、中耕)
・色付き(Véraison(ヴェレゾン))(秋/成熟(Maturité(マテュリテ)、収穫 ( Vendange(ヴァンダンジュ ))
ソムリエ試験では、フランス語での表記を問われる設問が出ることがありますので、日本語とフランス語をセットで覚える必要があります。
また、ブドウの仕立て方として垣根仕立(Guyot (ギヨ) 、(Cordon (コルドン))・棒仕立・株仕立(Goblet(ゴブレ))・棚仕立(Pergola (ペルゴラ))などがありますので、イラストと合わせて覚えましょう。
2-5.ブドウの病害の特徴と対処方法
ブドウの病虫害は、カビによって引き起こされるベト病や灰色カビ病・ウドンコ病・晩腐病と、その他の病虫害であるウイルス病やフィロキセラがあります。それぞれの英語名や仏語名とその病気の特徴を箇条書きでもいいので単語で覚えておくと回答しやすいです。
さらにそれぞれの病虫害の対処法についても、農薬散布や良好な風通し・耐性のある台木品種への接ぎ木といった対処法もセットで覚えましょう。
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3.ワインの醸造工程
ワインの醸造工程は、ワインの基礎を知る上で重要な項目です。スティルワインの基本的な醸造法を暗記することが大切です。
3-1.ワインの醸造工程の順序
まずは赤ワインと白ワインについて、収穫から瓶詰めまでの醸造工程を覚えましょう。収穫・選果・除梗や破砕の後に、赤ワインは主発酵と醸しをして圧搾を、白ワインは逆に圧搾してから主発酵します。その後マロラクティック発酵・樽タンク育成・清澄やろ過を行って瓶詰めに進むのは同じです。
赤ワインと白ワインの醸造工程を押さえておくと、ロゼワインの醸造工程も覚えやすいです。
3-2.ワイン醸造工程の名前と意味
各工程における名前は、フランス語表記の場合の意味や工程に合致する言葉を問われる問題が多いです。日本語とフランス語のセットで暗記しましょう。
発酵や貯蔵に使う容器にはステンレス・コンクリート・木・オークがあることや、醸しの段階で行うルモンタージュによって酸素の供給や温度の平均化、フェノール類その他の成分抽出といった効果や、それに加えて、樽育成の効果についても押さえておきたいポイントです。
3-3.その他の醸造法
次の醸造法について、行うことで得られる効果はどのようなものなのかを理解しておくことが重要です。
・セニエ法(Saignée)(ロゼ)
・直接圧搾法(Pressurage direct(プレシュラージュ・ディレク ))(ロゼ)
・Mcération carbonique(マセラシオン・カルボニック)(赤)
・Sur lie(シュール・リー)(白)
・Skin contact(スキン・コンタクト) (仏:Macération pelliculaire(マセラシオン・ペリキュレール))(白)
・Micro-oxygébation(ミクロ・オキシジェナシオン)(赤)
3-4.スパークリングワインの製法
スパークリングワインは20℃で3.5bars以上の炭酸ガス圧を有するワインです。製法はシャルマ方式(Méthode charmat(メトード・シャルマ )) ・トランスファー方式(Méthode de transfert(メトード・ド・トランスフェール)) ・炭酸ガス注入方式(Méthode rurale(メトードリュラル)) の4種類がありますので、それぞれ概要を押さえておく必要があります。
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4.ワインの統計
ブドウ栽培や生産量、ワインの消費量や生産量については、1971年からのデータが出ています。また、ワインの消費量や生産量は国別の統計もされていますので、直近3年分くらいの推移や国ごとの違いを統計表で把握しておくといいでしょう。
4-1.ブドウ栽培面積
1976~1980年代に約1020万haだったのをピークに、それ以降は少しずつ減少してきています。世界のワイン生産量も同じく減少傾向にありますが、世界のブドウ生産量は徐々に増えてきています。こうした推移をざっくりと把握しておくこと、そして直近の年の各データの数値を上2桁程度の精度で暗記しておくと回答しやすいです。
4-2.ワイン生産量順位
イタリア・フランス・スペイン・アメリカ・オーストラリア・アルゼンチン・中国・南アフリカ・チリ・ドイツの10ヶ国について、2011年からのワイン生産量の数値が出ています。
2015年、2016年、2017年の3年分のデータを覚えておくといいでしょう。イタリア・フランス・スペイン・アメリカ・アルゼンチンの上位5位の国は押さえておくことが必要です。
4-3.ブドウ栽培面積の推移
ワインの原料となるブドウの栽培面積の推移は、直近から20〜30年くらいまでさかのぼって、ざっくりと増加傾向か減少傾向かをつかんでおきましょう。世界のブドウ生産量やワイン生産量、消費量の順位とあわせて覚えると、全体の傾向が把握しやすく覚えやすくなります。
5.ワインの品種別名
ソムリエ試験の問題の中には、ブドウの品種を別名で表記していることが少なくありません。ブドウの品種は白ブドウと黒ブドウとに大きく分かれますので、それぞれの重要な品種の別名(シノニム)を暗記しておくことで、問題の意味の理解度が高くなり得点率も上がります。
5-1.白ブドウの重要品種の別名
別名を暗記しておきたい白ブドウの重要品種をまとめましたので参考にしてください。
・ユニ・ブラン=サン・テミリオン
・シャルドネ=オーベーヌ=ムロン・ダルボワ
・ソーヴィニヨン=ブラン・フュメ
・ムロン・ド・ブルゴーニュ=ミュスカデ
・シュナン・ブラン=ピノー・ド・ラ・ロワール
・シャスラ=グートエーデル(ドイツ)
・マカブー=マカベオ
5-2.黒ブドウの重要品種の別名
別名を暗記しておきたい黒ブドウの重要品種をまとめましたので参考にしてください。
・シラー=セリーヌ
・カベルネ・フラン=ブルトン
・マルベック=コット=オーセロワ
・グロロー=グロスロ
6.酒類飲料概論
ソムリエには、ワイン以外のアルコール飲料に関する知識も求められます。ワイン以外のアルコール飲料の概要を理解し、重要な部分を暗記することが必要です。
6-1.ビール、ウイスキー
ビールは、紀元前4000年以上前に誕生し、ハムラビ法典でも触れられるなど長い歴史があります。2017年の世界のビール生産量は約19億hlとワインの約8倍で、中国が生産量1位を16年キープしています。
ビールの原料は麦芽とホップで、副原料としてトウモロコシやデンプンなどが使われます。酵母の性質で分けると、発酵終了時に酵母が沈殿する下面発酵ビールと、発酵中に酵母が液面に浮かび上がる上面発酵ビールの2種類に分かれる他、酵母の除去の方法や原料、色による分け方があります。
世界にはピルスナーやボック、エール、スタウトといった各国で特徴のあるものが製造され、国民に親しまれています。
ウイスキーは、二条大麦麦芽を原料とするモルトウイスキーと、トウモロコシや小麦などを原料とするグレーンウイスキーがあります。それぞれの製造工程や酵母について暗記しておきましょう。
6-2.ブランデー、スピリッツ
ブランデーは、ブドウを原料としたコニャックやアルマニャック、リンゴを発酵させたワイン・シードルを原料としたカルヴァドスやオード・ヴィー・ド・ポワレ、サクランボを原料としたキルシュ、その他の果物を原料としたものの4種類に大別されます。
コニャックとアルマニャック、カルヴァドスは生産地や蒸留方法、熟成表示を覚えておきましょう。
スピリッツは、広義にはウイスキーやブランデーも含めた蒸留酒を意味します。代表的なものとしてはジンやウォッカ、テキーラ、ラムなどを指します。それぞれの原料や風味の特徴、有名な銘柄、販売量の推移は暗記しておくべき箇所です。
6-3.リキュール
リキュールは香草・薬草系、果実系、種子系、特殊系があります。重要なリキュールとしてシャルトリューズやベネディクティン、キュラソー、アブサン、パスティス、スーズ、チナールを押さえておきましょう。
2次試験のテイスティング問題にも出題されます。これらの主原料や産地、アルコール度数をつかんでおくことが大切です。
6-4.その他
上記3つのカテゴリー以外として覚えてきたいのは中国酒、カクテル、ミネラルウォーターです。
中国酒は黄酒と白酒の違いと、紹興酒などの代表的な銘柄の概要を覚えておきましょう。カクテルビルド・ステア・シェーク・ブレンドの4つの技法とアペリティフ・ディジェスティフ・オールディタイプ・ノンアルコールの4タイプを暗記しておくといいでしょう。
ミネラルウォーターは、硬度の分類基準とミネラルウォーター市場の推移、日本での国民1人当たりの年間消費量を覚えましょう。
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