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マロラクティック発酵の手法とその効果とは

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添加物は自然なものからバイオのものもあり、また生産者による手法や世界各国の温暖化によりマロラクティック発酵の工程も変化しつつあります。マロラクティック発酵の効果と、また行わないワインとはどんなワインなのか?

主発酵を終えてプレスされた葡萄はリンゴ酸を乳酸にし、まろやかにすることを「マロラクティック発酵」と言われますが、その工程は生産者や土地の気候によって様々。教本では知ることのない、MLF(マロラクティック発酵)について掘り下げてみましょう。

MLF(マロラクティック発酵)とは?その効果は?

マロラクティック発酵とは英語でMalolactic Fermentationと表記され、MLFと省略されます。英単語は二つなのに、省略されるとなぜ三文字なのかにはもちろん理由があります。この発酵は乳酸菌がワインの中にあるリンゴ酸を乳酸に変える工程です。英語でリンゴ酸はmalic acid、乳酸はlactic acidです。malolacticという単語にリンゴ酸と乳酸を意味する英単語があります。わかりやすく表記するとMLFはMaloLactic Ferfentationの大文字の略となります。

リンゴ酸とはその名の通りリンゴなどに含まれる有機酸で、まさに酸っぱいリンゴをかじるときに感じる非常に強い酸味です。酒石酸と合わせてブドウの有機酸の90%以上を占めています。フレッシュさやシャープさをワインにもたらしてくれる反面、ワインが酸っぱ過ぎる要因ともなり、赤ワインではほとんどマイナスでしかありません。乳酸もまだ文字通り、乳製品に含まれる有機酸で、あまり酸っぱいとは感じません。むしろ滑らかになります。

MLFはリンゴ酸を乳酸に変えるだけでなく、独特の香味成分も生成します。バターなどの乳製品のような香りをワインにもたらします。ただし白ワインでは感じやすいものの、赤ワインでは他の香りにかき消されて、あまりバター香を感じることはありません。主発酵と同様に、二酸化炭素も発生させます。たいていは空気中に放出されますが、瓶内に閉じ込めて微発砲ワインにすることもあります。ポルトガルのヴィーニョ・ヴェルデが有名です。

発酵とありますが、アルコールは生成しないので注意が必要です。MLFと区別するために主発酵または一次発酵と呼ぶことがあります。なお英語ではMLFのことをSecondary Fermentationと呼ぶこともありますが、シャンパーニュ式瓶内二次発酵とは意味が違います。こちらはSecond Fermentationです。MLFは酵母によるアルコール発酵よりも100年後に発見されましたので、まだまだ解明されていないことも多いのが現状です。

発酵はコントロールできる

20世紀半ばまで、マロラクティック発酵はアルコール発酵以上に謎の現象でしたが、今ではそのメカニズムの大部分が解明され、ある程度コントロールできるようになりました。

まずワインメーカーがMLFをするかしないかを決めることができるようになりました。今まではアルコール発酵が終了すると、たいてい自然にMLFが始まります。リンゴ酸を残したフルーティーな白ワインを造りたい場合には困ります。そこで主発酵終了後すぐに二酸化硫黄を添加して殺菌するか、温度を低温にして乳酸菌の活動を止めます。乳酸菌は酵母と同じ微生物であるため、生育条件は似ています。

MLFをするにしてもその種類を選べるようになりました。今までは野生の乳酸菌任せで予想不可能なこともあり、その種類によってはワイン飲酒後に、一部の人に起こってしまう頭痛の原因とされているチラミンを生成しました。乳酸菌の中にはこのチラミンをほとんど生成しない種もあり、これが今では市販されています。

MLFが起こりにくい条件もわかってきています。亜硫酸濃度が高いこと以外に、アルコール度数が15%以上と非常に高いこと、酸性度が低いこと、フェノール化合物の濃度が高いことなどがあります。アルコールやフェノールが高い場合、そのブドウはかなり完熟しているということであり、必然的にリンゴ酸はすでに減少していますので、MLFがなかなか進まなくてもバランスの取れたワインに出来上がります。酸性度が低いということは有機酸が豊富であることなので、減酸処理をすることで酒石酸の含有量を減らし、MLFを促します。

マロラクティック発酵をしないワインは?

赤ワインはほとんどマロラクティック発酵をします。強いリンゴ酸はタンニンや黒果実の風味と合わないからです。フェノール化合物の濃度が高すぎるゆえにMLFが完了しないことがありますが、必ずしもネガティブなことではありません。熟成してもワインのフレッシュさと艶やかさが残り、生命力のあるワインとなります。当たり年ボルドーが長命なのはこのためだという考えもあります。

一方白ワインはするかしないか分かれます。一般的にはアロマティック系品種(リースリング、ゲヴュルツトラミナー、ソーヴィニヨン・ブラン、マスカットなど)はしないことが多く、ニュートラル系(シャルドネ、ピノ・グリなど)はします。

アロマティック系の中でもリースリング、ゲヴュルツトラミナー、マスカットはほぼMLFしません。特にリースリングはリンゴ酸が非常に高くて酸性度が低く、比較的低温環境で醸造されることから、意図的にやらない限りMLFは起こりません。

ソーヴィニヨン・ブランはボルドーなどでセミヨンとブレンドして樽熟成される場合はMLFをします。フレッシュでフルーティーな果実味と強い酸味がオークフレーヴァーと合わないからです。しかし最近では樽熟成しないボルドー辛口白が増えてきて、消費者もすっきりした味わいを白ワインに期待する傾向からMLFは避けられるようになってきています。ただし敢えて実施するワイナリーも一部あります。

シャルドネとピノ・グリはアロマティックな品種ではないので、MLFをすることが多いです。リースリングのようにフルーティーではないので、バター香がこれらの品種の特徴と上手く統合してくれます。またニュートラル系品種は樽熟成との相性もいいので、その前段階としてMLFされます。

しかし非常に温暖な地域で栽培されていて、補酸が必要なくらいのまで酸味が落ちている場合は、そこから敢えてさらに下げる必要はないので、MLFをしないこともあります。

マロラクティック発酵を人的に行わなくなったのはなぜ?

一般的に、マロラクティック発酵の目的は酸味を下げることです。乳製品的な香りをつけるのはどちらかというと副次的です。しかし近年の気候変動により、夏の成熟期に急激にリンゴ酸が失われ、ワインの総酸度が下がってしまう課題が発生しています。

白ワインの場合、酸味が下がりすぎるとバランスを崩し、引き締まりのない味わいとなってしまいます。酸味の減少に伴い、酸性度が上がると微生物の活動が活発になり、ワインが汚染されてしまうリスクもあります。一度低下したリンゴ酸を人工的に添加することはできません。酒石酸をワインに添加することは可能ですが、EUでは厳しい条件があります。

MLFについて人体への健康上の影響を指摘する声もあります。乳酸菌の種によっては、頭痛の原因となるチラミン以外にも、吐き気やほてりの原因となる生体アミンが生成されるからです。どの程度の量で悪影響が出始めるかはまだはっきりとはしていませんが、消費者の健康意識が高い昨今では、無視できない問題です。

人体における乳酸菌の研究は進んでおり、それに付随する商品も当たり前のように見かけます。その一方でワインにおける乳酸菌の活動については、まだまだ分からないことだらけです。さらなる解明が進めば、消費者の好むスタイルを生産者が造れるようになるかもしれません。

単に「リンゴ酸を乳酸にし、まろやかにする」とは言え、どのような方法なのかは奥深く、発酵の段階で生産者の個性を生み出す大事な作業である事に違いはありません。

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