ワインやワインイベントの総合サイト | VINOTERAS(ヴィノテラス)

ワインやワインイベントの総合サイト
VINOTERAS(ヴィノテラス)

2022年フランス アルザス グラン・クリュにピノ・ノワールが認可

トピックス

フランスのアルザスといえば冷涼な気候を活かしたアロマティックな白ワインが有名で、フルートボトルと呼ばれる細長いボトルに瓶詰めされた姿をイメージされる方も多いのではないでしょうか。生産量の90%が白ワインということもあり、赤ワインは影に隠れがちですが、じつは繊細でエレガントな赤ワインも造られています。また、最近は熟成したピノ・ノワールが生産されるようになっています。

そんななかワイン・ラヴァーのなかで密かに注目されているのが、2022年5月にアルザスで格付け改訂されたピノ・ノワールのグラン・クリュ認定です。

アルザス グラン・クリュ にピノ・ノワールが認可

まずは、アルザスのグラン・クリュについてざっとおさらいしましょう。

グラン・クリュの多くは、ヴォージュ山脈麓の斜面にありますが、脈々とこの場所でブドウ栽培が行われてきたのかというと、少し異なります。アルザスはフランスとドイツの国境に位置することから、古くから両国間で主権が行き来する特殊な場所でした。19世紀末期から20世紀初頭、フィロキセラやブドウの病気に悩まされていましたが、アルザスを占領していたドイツは、ヴィニフェラ種ではなく、病気に強いハイブリッド種を平地で育てる政策を取りました。当時アルザスは安価なブレンド用のワイン生産地として位置付けられ、銘醸地として名を馳せていた斜面の畑は耕作放棄地となったのです。

第一次世界大戦後、一時期フランスに領土返還された際、斜面でのブドウ栽培が再開されましたが、第二次世界大戦中はまたドイツ領になり、中断。本格的な作付再開となったのは、1945年にフランスに返還され、AOC(格付け)が導入された後の1960年代以降の話となります。

そして1975年、グラン・クリュが導入されました。アルザス・グラン・クリュという一つの傘の下に複数のリュー・ディ(畑の区画)が含まれる形式が長く続きましたが、2011年にリュー・ディそれぞれが個別のグラン・クリュと認められることになり、現在、51のグラン・クリュがあります。この51のグラン・クリュで使用が認められてきたのが、リースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカの4品種で、「高貴4品種」と呼ばれています。例外として、シルヴァネールの使用や「高貴4品種」によるブレンドを認められた畑もありますが、基本的には同品種の中から単一品種のワインが造られています。

その白ブドウのみ認められてきたグラン・クリュに、今回2つのグラン・クリュ畑ではじめて黒ブドウ品種のピノ・ノワールの使用が認められました。

1つ目は、アルザス北部バー・ラン県にあるバール村の「キルシュベルグ・ド・バール」。1983年にグラン・クリュ認定を受けた場所です。標高220〜350mの南東向き斜面に広がる40ha強の畑で、泥灰土と石灰岩土壌です。ゲヴェルツトラミネール、リースリング、ピノ・グリといった白ブドウの栽培が中心ですが、古くからピノ・ノワールの栽培が行われており、全体の10%に当たる約4haに植わっています。現在、マルク・クレイデンヴァイスやドメーヌ・ボエケル等、8程度の生産者がピノ・ノワールで赤ワインを製造していると言われています。

2つ目は、南部オー・ラン県にあるヴィンツェナイム村の「ヘングスト」。こちらも1983年にグラン・クリュ認定を受けた場所で、標高270-360mの南または南東向きの斜面に約53ha の畑が広がります。土壌は泥灰土、石灰岩、砂岩を含みます。ゲヴェルツトラミネールやピノ・グリが栽培の大半を占めていますが、現在、約5haの土地にピノ・ノワールが植っており、アルベール・マンやポール・ブシェール等、10程度の生産者がピノ・ノワールで赤ワインを製造していると言われています。

グラン・クリュに認可された背景

ピノ・ノワール自体はアルザスで昔から育てられてきた長い歴史のある品種で、リースリングと並んで評価された時代もあった程です。現在、ピノ・ノワールはAOCで認められた唯一の黒ブドウですが、多くはクレマン(スパークリング・ワイン)向けに栽培されています。赤ワインとしての地位が決して高いとは言えない中、ピノ・ノワールがグラン・クリュに認定されるまでの道のりは平坦ではなく、20年ほど月日を費やしたと述べる生産者もいます。

念願叶ってのグラン・クリュ認定となったピノ・ノワール。その背景には何があったのでしょうか。

まず挙げられるのは、地球温暖化の影響です。ピノ・ノワールは最も栽培適地を選ぶ品種と言われています。基本的には冷涼な気候を好む品種ですが、その範囲は狭く、寒すぎても暑すぎてもNGな気難しい品種でもあります。アルザスは冷涼な大陸性気候ですが、近年の温暖化の影響で気温が上がってきており、ピノ・ノワールが完熟し、質の高いワインができるようになっているのです。

次に、消費者の需要に支えられ、陽の目を見ない中でも、ピノ・ノワールが適した場所で栽培され続けてきたことが挙げられるでしょう。上記の通り、ピノ・ノワールは最も栽培適地を選ぶ品種です。基本的には石灰質の割合が多い粘土・石灰質の土壌を好むと言われています。今回、認定された畑は、古くからグラン・クリュとして認められてきた最高の場所で、ピノ・ノワールが好む土壌でもあります。過去、高貴4品種のみグラン・クリュに認められてきた中でも、栽培地の10%に当たる面積でピノ・ノワールが植えられてきました。そして、例えば、ヘングストにあるアルベール・マンが「Pinot Noir Grand H」とラベルで表示するように(「H」=「Hengst」)、グラン・クリュと名乗らずとも、グラン・クリュ畑で育ったピノ・ノワールであることを消費者に伝え、品質の高いピノ・ノワールを造り続けたことで、認知を上げてきていたのです。消費者の需要があったこと、そして生産者もそれに応え続けてきた努力があるのです。
最後に、生産者側の意識改革です。歴史的に白ワイン中心に製造されてきた土地柄なので、昔はピノ・ノワールも白ワインの醸造に近いスタイルで造られ、色やタンニンの抽出が弱く、ロゼに近い仕上がりでした。その後、真剣にピノ・ノワールに向き合うべきだと考える生産者が増え、ブルゴーニュやドイツ等でピノ・ノワールの栽培・醸造に関する研鑽を積み、樽熟成を行うようなスタイルのピノ・ノワールの製造に舵を切っていったのです。まだ数は限られてはいるものの、こういった造り手が増えていったことで、アルザスのピノ・ノワールの評価が上がっていきました。

ピノ・ノワールに適した土壌

フランスの北東部に位置するアルザスの地理的環境に大きな影響を与えているのが、アルザスの西側に位置するヴォージュ山脈です。

西からの湿った空気は、ヴォージュ山脈によって遮断されます。その為、年間を通じて雨が少なく、フランスで最も乾燥したワイン産地の一つと言われています。また、西から吹く風がヴォージュ山脈の西側を通過する時に湿気を失うことで、フェーン現象が起こり、アルザスへは乾いた暖かい風が流れ込むことになります。その結果、夏は晴れの暖かい乾燥した日が続きます。北部に位置するにも関わらず、日照時間が長いことから、ブドウが熟す環境にあるわけです。暖かく乾燥していることで、ブドウが病気になるリスクは低く、オーガニックやビオディナミの栽培が盛んな地域でもあります。一方、高温・乾燥といった環境は干ばつに繋がるリスクもあり、問題となる夏もある程です。

また、ヴォージュ山脈があることで、標高、向き、土壌といった畑の環境に多様性が生まれ、ブドウ品種やスタイルに合わせた栽培環境を選ぶことが可能な場所です。グラン・クリュを始めとする優良な畑は、十分な日照時間と昼夜の寒暖差が得られる環境として、多くが標高200〜250mの高さから450m位までに位置し、南、南東、南西向きのいずれか方向を向いています。土壌環境に目を向けると、「モザイクのテロワール」と呼ばれる程の多様な地質があることも特徴的です。アルザスワイン委員会によると、アルザスには13種類も土壌が別れて複雑に絡み合っているようですが、ヴォージュ山脈(花崗岩、砂岩、頁岩)、ヴォージュ山脈の麓の丘陵地(石灰質、泥灰土、砂岩)、ライン川周辺の沖積平野(泥灰土、沖積土)の3つに大別することができると言われています。

今回、ピノ・ノワールのグラン・クリュ認定を受けた2つの畑を見てみましょう。

キルシュベルグ・ド・バール

キルシュベルグ・ド・バールは、標高220〜350mの高さの南東向きの斜面に広がる畑で、泥灰土と石灰岩土壌です。南東に向いていることから、朝日から十分に日光を浴び、果実がゆっくり熟すことができますし、冷たい北風も遮断できる環境にあります。土壌は排水と保水のバランスがよく、夏場の日照りにも耐えられる他、表面にある小石のおかげで日中に溜めた熱が夜間に放出され、果実の成熟を促すことも可能な環境にあります。

ヘングスト

ヘングストはアルザスの中でも南の方に位置し、ヴォージュ山脈の中でも標高の高い山が西からの湿った空気も冷たい北風も遮断することから、地域の中でも最も乾燥した場所と言われています。標高270-360mの高さにある南又は南東向きの斜面に広がる畑で、こちらも申し分ない日照量があり、昼夜の寒暖差も期待できます。土壌は石灰岩、砂岩、粘土が組み合わさっており、キルシュバーグ・ド・バーグよりも粘土が多いことから、力強く、骨格のしっかりしたワインを生み出すと言われています。これら2つの場所は、数あるグラン・クリュ畑の中で、まさに小難しいピノ・ノワールが好む気候と土壌を持ち、栽培に適した場所にあることが分かりますね。

今後のアルザス グラン・クリュに期待

アルザスでのピノ・ノワールのグラン・クリュ認定の動きが始まったと言われる20年前、ピノ・ノワールの作付面積は全体の8.5%程度でした。確かに、現在植えられているピノ・ノワールの多くはクレマン用のブドウではありますが、生産者の地道な努力により、現在は11%まで作付面積が成長しています。

今回のグラン・クリュ認定は、アルザスのピノ・ノワールの質の高さが世界に向けて証明されたものですし、アルザスのピノ・ノワールに対する注目は間違いなく高まるでしょう。上記の通り、アルザスの畑は多様性に富んでおり、アルザス内でも個別のテロワールを表すピノ・ノワールが増えることが期待されます。今回、ヘングスト、キルシュベルグ・ド・バールと一緒にINAOに申請を出したものの、フォルブルグは悔しくもグラン・クリュの認定を逃してしまいましたが、近い将来、グラン・クリュ認定を受けることが期待されている場所です。フォンブルグにはドメーヌ・ミューレという偉大なピノ・ノワールの生産者がいますので、今からミューレのピノ・ノワールを楽しんでみてもいいですよね。

ピノ・ノワールのグラン・クリュは収穫後翌年10月1日まで熟成させる必要があることが決められましたので、ヘングストとキルシュベルグ・ド・バールのピノ・ノワール・グラン・クリュが市場に出回るのは、早くても2023年後半になります。今から首をながくして待ちましょう!!

ピックアップ記事

関連記事一覧