マセラシオン(醸し)の手法とその特徴と効果は?

ワインの醸しについて様々な手法がありますが、どんなワインに仕上げるべくその手法を選んでいるのか?教本では知ることのないマセラシオンについてちょっと掘り下げて見たいと思います。
環境の変化や造り手が変わる中で時代とともにその手法にも変化があります。
マセラシオンを通して少しだけワイン造りの世界をのぞいていきましょう!

マセラシオン(醸し)とは
発酵容器内で果汁に果皮や種子、又は梗(ぶどう果実が着いている茎の部分)を漬け込むこと。
色素であるアントシアニンや渋み成分のタンニンを抽出します。
赤ワインらしい色調や味わいを引き出すことができる工程で「醸し」とも言われます。
どれくらい漬け込むの?
造ろうとするワインのタイプによって、マセラシオンの期間は異なります。
早のみタイプでタンニンの少ない新酒の場合は数日間。
色調の濃い長期熟成タイプであれば数週間、又はそれ以上になります。
ロゼワインやオレンジワインもマセラシオン
実はロゼワインやオレンジワインでもマセラシオンを行うものもあります。
ロゼワインの場合は黒ブドウを使い、求められる色調になった時点でワインと果皮などを分離させて発酵を進めます。
オレンジワインの場合は白ぶどうを使用してマセラシオンを行い、オレンジがかった色調と独特の渋みが抽出されます。日本では甲州やデラウェアなどのオレンジワインをよくみかけますね。
マセラシオンの手法

赤ワインは黒ブドウ果実を破砕(かるく潰す)ことで果汁がでてきます。
その後にタンクや樽などでマセラシオンを行います。
ここでは代表的な3つの方法をご紹介します。
①マセラシオン・プレフェルメンテール・ア・ショー
黒ブドウを破砕すると果汁、果皮、果肉、種子などが混ざりあった果醪ができあがります。これを70℃前後まで加熱して一定期間保持します。
求める色素が抽出できれば圧搾。その後果汁を常温まで下げてから発酵します。
「ショー」は熱という意味。
得られる効果
色素が抽出されやすくタンニンが少ないので早のみタイプのワインに向いている。
②マセラシオン・フィナル・ア・ショー
黒ブドウを破砕後に果醪の状態でアルコール発酵をして30℃〜45℃に保つ。マロラクティック発酵(※1)がはじまるまで保持しておく方法です。
得られる効果
果皮や種子からのタンニンの抽出が強くなる醸し方。醸し発酵と呼ばれることもあります。
※1アルコール発酵後に起こる反応。ワイン中のりんご酸が乳酸に変わることを指す。ワインの味わいがまろやかになる。
③マセラシオン・プレフェルメンテール・ア・フロア
別名「コールド・マセレーション」と呼ばれます。フロアは冷たいという意味。黒ブドウを破砕後の果醪の状態で低温(5℃〜15℃)で浸けこみます。10日間程度で果皮成分を抽出。
得られる効果
ぶどう果実内で、少しアルコール発酵がおこります。それにより果実味の強いワインが醸造されるマセラシオン。ピノ・ノワールによく用いられる方法です。
一緒に覚えておこう「マセラシオン・カルボニック」
ソムリエ試験でよくでてくるマセラシオン・カルボニックは特殊な方法です。黒ぶどうを破砕前にタンクに二酸化炭素と一緒に置いて発酵させます。
これは果実が空気に触れずに発酵できるので酸化がおさえられ果実味の豊かな渋みの少ないワインが出来上がります。主にボージョレ・ヌーヴォに用いられる手法です。
マセラシオンの手法の違いでワインはどう変わるのか?

マセラシオンの目的は色素とタンニンの抽出にあります。ワイン産地によって作られるぶどうは様々。
収穫されるぶどうからどのようなワインを造るのかはぶどうの成熟度や生産者のスタイルによって変わります。
時代によるマセラシオンの違い「全房発酵」と「除梗」
近年では「全房発酵」に注目が集まっています。全房発酵とはぶどうの果実が着いている梗を取り除かずにマセラシオンをする発酵のこと。
通常であれば「除梗」をしてワイン造りをするのですが、全房発酵を取り入れるワイナリーがブルゴーニュを中心に増えてきました。
・全房発酵のメリット
全房発酵のメリットは「複雑性」が生まれることです。ぶどうの梗を入れてマセラシオンをすることでスパイシーさや香ばしさが入ります。
また、除梗をしていないぶどうは果汁が流れでないので、タンクに入れてから櫂入れという作業をして初めて果汁が出てきます。
それによりぶどうに含まれる酵母が少しづつでてくるので発酵もゆっくりと進みます。これにより様々な成分を生み出し複雑性が生まれます。
ただし、色調は薄くなる傾向がありますがこれは美しいと感じる方もいるでしょう。
・質の良いぶどうが求められる
全房発酵に求められるのは「ぶどうの質」です。梗が熟していなかったり、病気になったりするとワインの質を大きく落とします。使わないという選択肢も重要です。
実際、全房発酵をすすめるメーカーでも、生産年によっては一部の使用に留める事もあります。生産者が納得できる質のいいぶどうでないと使えないのです。
・全房発酵のデメリット
もちろんデメリットもあります。専門的な話になりますがバクテリアを含む酸素が入りやすく、酢酸エチルという成分がビネガーや除光液のようなオフフレーバーを出すこともあります。(酢酸エチルはワイン中には存在しますが悪い反応をした場合)
pHもあがりやすくバクテリアにおかされて腐敗酵母に汚染することもあり、こちらもオフフレーバーに繋がります。
まとめ
マセラシオンは産地やぶどう熟度、生産者のスタイルによって大きく変わります。又、全房発酵など選択肢も増えてきています。又気候などの環境的な変化も大きくなってきています。どちらがいいという訳ではなくより個性を追求するための選択です。
今回取り上げた手法は一部のものです。ワイン造りは年々進歩をとげています。新しい技術や伝統的なものまで。進化し続けるワイン造りに注目していきたいですね。

ライター 鎌田 陽(かまだ ひかる)
元ホテルマン。レストランを中心にソムリエとして勤務。ワインに関わって約10年、メーカーズディナーなどのイベントを企画・開催「ワインは人を幸せにする飲み物」をモットーにフリーランスライターとして活動中!