接ぎ木の仕組みを見て疑問に思う事。日本の生食用ぶどうはどうだろう?

「接ぎ木」とは ワイン用ぶどう栽培の他に、生食用ぶどうや他の果樹栽培でも多く用いられる技術です。
つい、「接ぎ木=フィロキセラ対策」 と捉えてしまいますが、接ぎ木によって得られるメリットはそれだけではないようです。
今回はワイン用ブドウでは採用されている接ぎ木について、生食用ぶどうは行っているのか?という事情についてさまざまな果菜・果樹に用いられる技術「接ぎ木」について、日本のぶどう栽培農家さんにも直接お伺いしご紹介いたします。
目次
- 日本での生食用ぶどうの接ぎ木について、ブドウ農家は使用しているの?またその仕組み
- 接ぎ木の利点と欠点。現地の農家さんにも聞いてみた
- 接ぎ木は利点が多い
日本での生食用ぶどうの接ぎ木について、ブドウ農家は使用しているの?またその仕組み

接ぎ木とは 近い分類の植物同士をつないで1つの植物として育てる方法。
育てたい品種の枝(穂木)をある程度の長さに切り、台木と呼ばれる木に挿し込み、ひとつの植物として育てる方法です。
日本の生食用ぶどう栽培でも広く行なわれており、その方法は植物の種類と目的によって変わります。
日本で接ぎ木を行う場合、同じ農園内で育った木の接ぎ木は可能ですが、他の農園から譲ってもらったり買ったりすることは法律で禁止されています。
台木の多くは根の生育が良く骨格枝の成長も早い「リパリア テレキ5BB」という接ぎ木専用の台木を使用。一度接ぎ木をしたら品種の変更はしません。
植物の表皮の内側には「形成層」と呼ばれる養分や水分を移動させている経路があり、そこに傷がつくと傷を癒そうと形成層の細胞分裂が活発になります。
台木の切断面と穂木の切断面の形成層をピッタリと合わせて固定することで、「カルス」という組織が形成され、2つの植物が一体化し成長していくという仕組みです。
接ぎ木の利点と欠点。現地の農家さんにも聞いてみた。

接ぎ木を行う利点は多く、地面に接している台木と接ぎ木部分が違う事から感染や害虫の被害を受けにくくなります。
土壌に適した、病気や害虫に強い台木が持つ性質を穂木に受け継ぐことができ、穂木の残しておきたい性質を損なう心配もありません。
山梨県甲州市でブドウやスモモを栽培している フカサワファーム 深澤万也さんのお話では、
接ぎ木をする事で苗木から育てるよりも本収穫までの年数を1~2年ほど短縮する事ができ、樹齢10年の台木に接ぎ木したケースでは、早ければ3年目にはデラウェア程度の小振りな房が実り、4年目には400ℊ~500ℊ程度の房ができるとの事。
欠点としては、挿し木などの方法に比べて手間がかかる事。
穂木と台木が繋がることを「活着」と呼び、成功させるためには木の特性をよく理解する必要があります。
接ぎ木をした後の温度管理・水分管理が非常に難しく、穂木と台木との相性が悪いと両方枯れてしまう事もあり、経験を持ってしても活着率(根付き率)は6割程度にとどまっています。
接ぎ木は利点が多い。

接ぎ木を行うことで得られるメリットは多くありますが、その分台木の選定も重要となり糖度・果粒の大きさ・着色等、生産全体にさまざまな影響を与えます。
台木の研究が盛んに行われるようになったのは、19世紀半ばからヨーロッパの農作物に大きな被害をもたらしたフィロキセラなどの病害虫がきっかけです。
研究によってアメリカ系の台木に接ぎ木する事でフィロキセラの害を防げることは判明しましたが、当時は木の植え替えの費用を捻出することが出来ず、消滅してしまったワイン産地も数多くありました。
当時作られた台木品種は「台木の三大原種」と呼ばれ、現在使われている台木もこの3品種を交雑したものが主流です。
現代の「美味しい果物がいつでも買える」という日常は先人たちが残してくれた知恵と、日々生産に携わっている方々の努力の賜物だと改めて感じます。
ぶどうの旬はもう少し先ですが、食べる時には生産の背景にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
協力いただいた農園
フカサワファーム
フカサワファームは、山梨県甲州市でブドウやスモモを栽培している農園です。農薬を減らし、自然食品として良質な作物を皆様にお届けできるよう日々努めております。ブドウは巨峰やシャインマスカット、スモモはサマーエンジェルやレッドビュートなどを作っております。
生産者深澤万也さんの取材をもとに参考にさせていただきました。


パンパンに実った美味しそうなシャインマスカットです!
ご協力ありがとうございました。