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本当は奥深い!ワイン樽の世界

トピックス

「樽香が効いてていいね!」「これはちょっと樽香がきついな……」といった形でワインを表現される方も多いのではないでしょうか?
そもそも樽の香りはどこからくるのでしょうか。樽熟成させたことでワインにどんな変化があるのでしょうか。じつはワインと樽の関係はとても奥が深いんです。今回は樽の種類をはじめとして、どのようにしてワインの風味や骨格に影響を与えるのかを深堀りしていきます。

ワインを樽で熟成させるとどんな効果があるのか

例えば、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランのように、フルーティでフレッシュなスタイルのワインは、果実由来の第1アロマを残すため、ワイン製造の過程で徹底的に酸化を防ぎ、アルコール発酵後すぐにボトリングしたりタンクで貯蔵します。
一方他のワインは、発酵後の熟成期間を経てスタイルを固めていきますが、樽はその際重要な要素の一つとなります。樽での熟成は、主に酸化由来樽の成分によって効果が得られます。

酸化による変化を取り入れる

まず香りと風味です。樽で時間をかけて酸化熟成すると、徐々に第1アロマが減り、ナッツやドライフルーツのような熟成由来の第3アロマが増え、香りや風味が複雑になります。ただし、酸化熟成させれば必ず第3アロマが現れるという訳ではなく、果実の凝縮感がないワインだと、第1アロマが失われるだけで、むしろ逆効果となります。
次に色調の変化です。白ワインの場合、レモン色からゴールド、茶色へと色調が変化します。赤ワインの場合、一旦は、酸素に触れることで色素(アンソシアニン)がタンニンと結びつき色調が濃くなりますが、長期間酸化熟成されると、徐々に薄い茶色へと変化していきます。
最後に、主に赤ワインのケースですが、タンニンが時間と共にソフトになります。つまり、長期熟成が可能なワインは、そもそもタンニンがしっかりあるものに限られるということです。酸味やアルコールのレベルは熟成期間を経ても大きく変化しません。タンニンが少ないワインを樽で熟成させると、果実味、酸味、タンニン、アルコールのバランスが崩れてしまいます。

樽の成分抽出によって複雑性を増す

オーク樽の代表的な成分とその特徴をいくつか紹介します。以下のような芳香成分がワインに抽出されることで、発酵や樽成分に代表される第2アロマが現れ、ワインの複雑性が増していきます。

  • ラクトン:ココナッツやミルクっぽい香りの正体。アメリカンオークに多く含まれます。規則性はないのですがシーズニング(木材の乾燥)により量が増減したり、トースティングで香りが強くなる傾向があります。「cis」と「trans」という成分に分けられ、前者の方が香りが強く、森林や草のような香りもあると言われています。後者は穏やかで、香辛料のような香りとも表現されます。アメリカンオークに多く含まれるのはcisの方です。
  • ヴァニリン:いわゆるヴァニラ香です。トースティングやシーズニングにより成分が増えますが、ヘヴィまでトースティングすると、逆に成分は減少します。
  • オイゲノール:クローヴの香りの正体。シーズニングやトースティングにより生成されます。
  • グアイアコール:スモークや焦げた香りの正体。トースティングの度合いに応じて成分が多くなります。
  • フルフラール:木の糖分を燃やすことで発生する成分で、アーモンドやバタースコッチのような香りがします。
  • マルトール、シクロテン:フルフラール同様、トースティングにより生成される成分で、キャラメルのような甘い香りの正体です。
  • エラジンタンニン:タンニンには縮合型タンニンと加水分解型タンニンの2種類あります。前者はブドウの種子や果皮に含まれるもので、後者は樽に含まれます。後者の成分(エラジンタンニン)は、前者よりも性質は穏やかで、トースティングが進むにつれ減少していきます。

樽の効果に影響を与える要素とは?

木樽で熟成されたワイン全てに、これまで述べてきた香りや味わいがあるわけではありません。ではどのような要素がワインの風味に影響を与えるのでしょうか?具体的には「樽の使用年数」「樽のサイズ」「樽に使う木材の種類」「樽の製造方法」などが挙げられます。順に解説していきます。

樽の使用年数

新樽は多くの成分を含んでいますが、使えば使うほど成分は減っていきます。1年の使用で約半分の成分が喪失し、4回目の使用時にはほとんど成分は残っていないと言われています。では、新樽が一番いいのかというとそんな単純な話ではありません。「どういうスタイルのワインを造りたいのか」が重要です。例えば、新樽はアロマティック品種に対して影響が強すぎるので避けられる傾向にあります。また、最近は古樽のみで熟成させる造り手も多いです。ブルゴーニュのグランクリュやボルドーの1級レベルの赤ワインでは、新樽100%で造られることもありますが、多くのワインは新樽と古樽で熟成させるワインをブレンドして目指すスタイルを実現しています。

樽のサイズ

例えば、ボルドーで使われる樽(バリック)は225Lと比較的小さなサイズですが、樽のサイズはさまざまで、なかには1,000L前後の大樽もあります。
小樽は大樽に比べて、容量に対してワインが樽に接触する面積が大きいので、それに比例して成分や酸素を取り込む量が多くなります。つまり酸化の影響や樽の成分をより感じやすくなるわけです。

木材の種類

樽に使われるいくつかの木材の種類のなかで、オークが最も一般的です。理由としては「樽の形に成形しやすい」「耐水性が高い」「ワインの香り、風味、骨格によい影響を与える」などが挙げられます。また、オークはヨーロッパ産(その中にもフランス、ハンガリー、ロシア、スロヴェニア産等あります)とアメリカ産に分けられ、両者には異なる点がいくつかあります。

<違い①:香りの種類>
ヨーロッパ産もアメリカ産もオーク樽の香りの中核と言えるヴァニリン(ヴァニラ香)を多く含みますが、アメリカンオークはラクトンの量が多く、よりココナッツやミルクの香りが強く出ます。
<違い②:タンニン>
ヨーロッパ産の方が、アメリカ産よりもタンニンの量が多く含まれます。
<違い③:木目>
木の成長速度がゆっくりな程木目が細かく、成分抽出も穏やかになります。ヨーロッパ産の方がアメリカ産よりも成長が緩やかで、木目が細かいので、アメリカ産の方が樽の影響が強く出て、ヨーロッパ産の方が落ち着いた印象と言えるでしょう。
尚、ヨーロッパ産の中でも、フランスよりもロシアやハンガリーといった冷涼な地域で育つ木は更に木目が細かく、タンニンや芳香成分の抽出が穏やかになります。
<違い④:価格>
ヨーロッパ産の方がアメリカ産より高いです。大まかな目安ですが、フレンチオークが€600-1,200 だとすると、 アメリカンオーク が€300−600というイメージです。アメリカンオークが安価なのは大量生産が可能だからです。まず、ヨーロッパ産よりも木の成長スピードが早いので、製材可能な木材の量が多いことが挙げられます。そして、アメリカンオークには「チロース」と呼ばれる成分が多く耐水性が高いため、ノコギリによる板目取りの製材が可能です。一方、ヨーロッパ産は、アメリカンオークに比べ耐水性が低く、くさびを打って木の中心部から放射状に製材する必要があります。つまり、アメリカンオークの方が材料を無駄なく使え、スピーディーに大量生産できるため、安価で製造できるわけです。

樽の製造方法

樽の製造過程でワインの香りや味わいに大きく影響を与えるのが、シーズニング(乾燥)とトースティングです。

<シーズニング(乾燥)>
カットされた板材は、2−3年程度外で天日乾燥させるか、人工的に窯で乾燥させる方法があります。
天日乾燥する場合、板材に発生するカビや酵素によって、タンニンを始めとする苦みが減り、ラクトン(ココナッツ)やヴァニリン(ヴァニラ)、オイゲノール(クローヴ)といった芳香成分が増えます。天日乾燥の環境が異なると、成分が変わることも分かってきています。例えば、オーストラリアやカリフォルニアのような高温・乾燥地帯で天日乾燥された木材の方が、フランスのような冷涼で湿気のある地域のものよりも一部のラクトンがより多く形成されるものの、全体的には窯で乾燥させたものに仕上がりが似ていると言われています。
窯での乾燥は、1年以内で作業が完了するというメリットはある一方、天日乾燥に比べて苦味成分の減少が少なく、芳香成分の増加は穏やかになる傾向があるようです。
<トースティング>
ガスやスチーム、熱湯、炎を用いて熱を加え、木材を樽の形に曲げていき、最後に樽の内側を焦がします。この焦がし作業によって、タンニンが減って、芳香成分(スパイス、キャラメル、ローストナッツ、焦げやスモーク)が増えていきます。
樽は、トースティングの温度と時間によって、ライト、ミディアム、ヘヴィに分けられます。
ライトは、タンニンが強く感じられる他、オークや木といった香りが強く出ます(トーストされた木材は、アルコールと樽のタンニンや他の成分との間のバッファーとして機能しますが、ライトの樽の場合、他に比べてタンニンや芳香成分がより多く流出することになります)。
ミディアムの樽には、ヴァニラやコーヒーといった香りがあり、ライトに比べるとタンニンが穏やかで丸みのある印象になります。
ヘヴィの樽からは、ローストされたコーヒー豆やパンのトースト、カラメル、ナツメグやクローヴといったスパイスや燻製肉といった香りが出ます。ブルゴーニュの樽はボルドーの樽よりもヘヴィに仕上げることが多いのですが、そもそも樽に用いる木材が分厚目だということに加え、ピノ・ノワールやシャルドネはカベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、ソーヴィニョン・ブランやセミヨンに比べて、香りや風味が繊細なので、樽のタンニンや芳香成分を抑えたへヴィと相性がいいことが背景にあると言われています。

樽を使わなくても「樽香」は作れる!?

一昔前は樽以外では前述したような効果を得られることはなかったのですが、樽自体の値段が高いこと、そして樽を管理する労働力、樽熟成にかかる時間等を考えると、決して簡単に利用できるわけではありません。

そこで近年、「オークチップ」「オークスティーブ」を使ったワインが流通しています。これらは樽材を切り取った後に残った材木で作られるもので、オークチップは液体を通す袋に入れてワインの中に漬け込まれます。オークスティーブはタンクの内側に取り付けられたり、ワインの中に浮かべられたりします。
樽と同様に木材の種類、シーズニングやトースティングのレベルを選ぶことができるので、求めるスタイルに合わせた使い方ができます。樽よりも安価で、手間も少なく、ワインとの接地面積が大きいのでオークの効果を手早く得られます。

また、前述したように樽の効果は酸化によるものもあります。その点オークチップやオークスティーブだけでは酸化の効果を得られないので、「ミクロ・オキシジェナシオン」という、ワインに微量の酸素を送り込むテクニックを併用するケースが増えています。計算された量の酸素を送り込むことができるので、酸化のニュアンスを調整しやすく、オークチップやオークスティーブがもたらすオークの風味とワインの味わいが一体化されやすいという利点があります。
オークチップやオークスティーブを使って樽と同じ効果を安価に実現できる時代です。みなさんが普段飲んでいる樽香があるワインでも、実はこのような技術を駆使して作られているものがあるかもしれません。

まとめ

今回は樽がワインに与える成分によってどんな香りや味わいが生まれるのか、またさまざまな角度から樽の種類や特徴を紹介しました。あらゆる樽の個性を生かしたワインの醸造法を知ることでよりワインに対するリスペクトが生まれると思います。

ワイン・ラヴァーとしては、「この樽でなければいけない!」という思い込みは捨てて、造り手が追い求めた仕上がりやスタイルを想像しながら全体のバランスや複雑性、一体感を頭の片隅に置いて味わってみてはいかがでしょうか。

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